スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

スピノザ「共通概念」試論&再構成

2013-07-09 18:59:21 | 哲学
 スピノザの哲学において無限様態と個物の関係をどのように理解するべきなのかという観点から,福居純の『スピノザ「共通概念」試論』をまた取り上げました。ここでこの本を紹介しておくことにします。
                         
 題名から理解できる通り,この本はスピノザの哲学の概念notioのうち,とくに共通概念notiones communesに特化して,福居自身の読解を主張しているものです。ただし,純粋な意味において共通概念だけを対象としているかといえば,そんなことはありません。そのことは福居自身が序文で説明しています。
 スピノザは知性intellectusによる事物の認識cognitioを,第一種の認識cognitio primi generis,第二種の認識cognitio secundi generis,第三種の認識cognitio tertii generisと三種類に分類しています。共通概念はこのうち第二種の認識に該当します。しかしこの本では,第三種の認識についてはまったくといってもいいくらい触れられていませんが,第一種の認識に関しては明らかに考察対象となっています。
 第一種の認識と,第二種および第三種の認識の間には,大きな断絶があります。それは,前者が虚偽falsitasであるのに対し,後者が真理veritasであるという点です。あるいは後者が有esseであるとすれば,前者は無であるという点です。しかし一方で,スピノザは第二部定理三二で,どんな観念ideaも真理であると主張しています。いい換えればそれは,虚偽であるとみなされ得るような観念も,神Deusのうちでは真理であるということです。福居によれば,ここには虚偽から真理への移行が潜んでいるのです。
 この断絶と移行の関係をどう理解するべきであるのかということが,一冊の主題です。『スピノザ『エチカ』の研究』を著したとき,福居はこの移行に関して肯定的でした。しかしこちらでは,それに比較すれば否定的になっているといえるでしょう。
 肯定的であるべきか否定的であるべきかは,軽々しく結論を出すべきものではありません。この点に関しては僕もいずれはテーマとして設定し,詳しく考察するつもりでいます。

 福居純の証明については,少し補足しておかなければならないことがあります。
                         
 書評にも示しましたように,『スピノザ『エチカ』の研究』は,『エチカ』の注解であり,公理系によって示されている『エチカ』を,通常の文章形態に置き換えたものです。このために,福居の著書では,『エチカ』で示されている順序というものが完全な意味において守られているとはいえません。ただしそれは,文法的な面から止むを得ずという場合もありますし,公理系であるものを通常の文章に直す場合に,その文章の理解の平易さといったものの側面もあります。基本的に多少の順序のずれが生じていたとしても,それは注解としての質を低下させるようなものにはなっていないと僕は考えています。ただ,事実として,『エチカ』を注解するにあたって,『エチカ』の再構成とでもいうべき事柄は行われているといえます。
 そこで僕が示した第一部定理二六の福居による証明Demonstratioが,福居によって再構成された証明にそのまま準じているのかといえば,これもまたそうはなっていません。ここに僕が示したのは,福居が再構成したものを,僕がまた再構成したものです。僕がそのようにした理由は,別に福居の証明に不備があると考えているからではありません。単に,僕の今回の考察の主旨に照らしたときに,最もよいと思われるような仕方で,この定理Propositioを証明する目的からです。したがって,僕は福居純の証明といっていますが,もしもその内容に何らかの不備があると思われた場合,その責任はおそらく福居にではなく,僕の方にあるだろうと思われます。僕は福居が示している主旨に関してはそれを曲げることなく再構成していると思っていますが,それが成功していない可能性はあります。ですからこの部分の意味としては,僕が理解する,福居純による第一部定理二六の証明であるというように考えておいてください。
 さて,この証明の内容から,まずはスピノザによる第一部定理二六証明への疑問というものが,どの程度まで解決され得るのかということを考えてみたいと思います。ただし①の疑問は積極的ということの意味に直接的に関係してきますので,焦点は別の角度から当てられることになります。

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