・ J=P・メルヴィルの緻密な計算が行き届いたフィルム・ノワールの頂点。
ジョアン・マクロード原作をジャン=ピエール・メルヴィルが監督・脚本化したフレンチ・ノワール。アラン・ドロンが孤独な殺し屋に扮し、フランソワ・ペリエ、ナタリー・ドロン、カティ・ロシエが共演。
<サムライの孤独は、他の誰よりも深い。同等に深いものがあるとすれば密林にいる虎の孤独だろう。>武士道より
というクレジットで始まるこのドラマは、A・ドロンを想定したメルヴィル・ワールド満載。
寒々しいパリのアパートで、小鳥と暮らす孤独な男。ひと言もなくタバコをくゆらし、もの思いにふける。モノクロのようなメルヴィル・ブルーに小鳥の音と海の底にいるような音声。めまいを起こしそうなカメラワークは緻密な映像美を追求したメルヴィルの真骨頂で始まる孤独な男ジェフ・コステロ(A・ドロン)。
孤独なサムライと密林の虎を結びつけた武士道とは、メルヴィルの創作だが、トレンチ・コートにソフト帽をかぶる姿は出陣前のサムライの佇まいを連想させ、盗難車のシトロエンDS21は鞍をつけた馬のようで歩く姿もスタイリッシュ。
ハリウッド進出に失敗した彼の復活を本作で見事に果たし、メルヴィルとのコンビは「仁義」「リスボン特急」と続いていく。
共演したのは、強引な捜査でジェフを執拗に追いかける警部にフランソワ・ペリエ。アリバイ作りに協力したジャーヌを演じたパートナーでこれがデビュー作のナタリ-・ドロン。そして殺害を目撃しながら人違いだと証言したナイトクラブのピアノ弾きヴァレリーのカティ・ロシエ。
特別出演したのがジャーヌを愛人に持つ富豪ビエネルに扮したミシェル・ボワロン監督。「お嬢さんお手やわらかに!」(59)「殿方ごめんあそばせ」(57)でお馴染みだが2年後「個人教授」でN・ドロンをスターにしているのも皮肉な出来事だ。
メトロでの追跡や陸橋の上での襲撃など名シーンがのちの映画のお手本になったのはその映像がすばらしかった証でもある。
メルヴィル所有のジェンネル撮影所が残した最後の名作は孤独な男の虚無感漂う印象的なラストシーンで幕を閉じる。
メルヴィルを支えたアンリ・ドカエ撮影監督とフランソワ・ド・ルーベの調べが欠かせない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます