・ モノクロ・スタンダード画面で描かれた究極のラブ・ストーリー。
「イーダ」(13)のパヴェヴ・パヴリコフスキ監督5年ぶりの作品で、「万引き家族」とパルムドールを争った。カンヌで監督賞を受賞している。冷戦下のポーランドで出会った男女が、時代に引き裂かれながら惹かれ合い、失意の別れを繰り返す15年間を描いた88分。全編モノクロでスタンダード画面ならではの時代感覚が表現された傑作だ。
監督は両親をヒントに映画化したというが、ストーリーそのものはオリジナル。
49年共産圏時代のポーランド。
地方の民謡を舞台で披露する音楽舞踏学校<マズレク>の音楽監督・ピアニストのヴィクトル(トマシュ・コット)は、入団テストに応募した田舎娘ズーラ(ヨアンナ・クリーク)に一目惚れ、ふたりは恋におちる。
時代は政府の監視でスターリン賛歌のプロパガンダ色の強いものとなって行き、ヴィクトルはズーラとともに逃亡を謀ろうとする。
ベルリン、ユーゴスラビア、パリを舞台に別離と再会を繰り返しながら、祖国ポーランドで腐れ縁ともいえる恋を完結する15年間を情熱的に描いている。
ウカシュ・ジャルによる光と影のコントラストによって奥行きがある美しいモノクロ画面が、時代に翻弄される二人を追っていく。ストーリーと音楽が絶えずリンクして行く映像は秀逸で目が離せない。
テーマとなった<2つの心>は原曲ポーランドの民謡からジャズが流れるパリのクラブでアレンジされるなど、時と場所が変遷するたびに二人の関係が変化していく様が描かれる。
省略されたストーリーの余韻を感じさせるカット代わりと音楽の巧みな構成は、観客を魅了して止まない。
ファムファタール、ズーラを演じたヨアンナ・クーリクは’82年生まれだが、田舎娘から成長した大人の女まで幅広い年齢層をごく自然に振る舞い、ヴィクトルを惹きつけて止まない魅力ある情熱的な役柄を見事に演じている。
自由な社会に浸った男がやつれ、束縛のなか自分のスタンスを守っていた女が輝いて行く情熱的なラヴ・ストーリーは、プロローグで現れた廃墟となった教会でモノローグとなる。
「ここから連れ出して」というズーラが二人の究極の愛を締めくくる15年間は、ポーランドにとっても激動の時代でもあった。14歳で母に連れられロンドンへ渡った監督にとって、祖国と両親への愛を込めた作品だった。