晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「ワイルドライフ」(18・米)75点

2019-12-16 12:40:04 | 2016~(平成28~)


 ・ 静謐な映像で自身の心情を投影したP・ダノ初監督作品の家族ドラマ。


 90年に発表したリチャード・フォードの同名小説をポール・ダノがパートナーでもあるゾーイ・カザンとともに脚本化して監督デビューした。

 60年代のモンタナを舞台に父親の失業をキッカケに、幸せな一家が崩壊して行くさまを14歳の一人息子の視点で描いた家族の物語。

 個性派俳優として「リトル・ミス・サンシャイン」を始め様々な役柄を演じてきたP・ダノ。35歳にして自身の体験を投影するような原作に惚れ込み映画化に挑戦した。

 元教師で働けるのに60年代の主婦像である専業主婦を務めながらも経済的不安から夫についていくジレンマが爆発、心の隙間を埋めるような行動に走る母・ジャネット(チャーリー・マリガン)。

 一家を支えるためプライドを貫こうとしながらも何をやってもうまく行かず、山火事を食い止める危険な仕事場に出稼ぎに出ることで現実逃避してしまう父・ジェリー(ジェイク・ギレンホール)。

 両親を愛していながらバラバラになっていく様をどうしようもなく、戸惑いながらも少しずつ成長していく息子・ジョー(エド・オクセンボールド)。

 なかでもC・マリガンが決して共感を得られそうもない生身の女性に扮し、オードリーの再来といわれたデビュー当時とは一皮むけた演技で目を惹いた。今とは違って当時の30代半ばは中年で、若かった時代を懐かしく焦りが生じる頃。夫が若かったころとは違い頼りない男だと思ったとき、全てを捨て再スタートしようとする変貌ぶりが哀しく痛々しい。

 J・ギレンホールは若手演技派俳優として大活躍中で、本作では理想的な父親を目指しながら挫折、プライドだけは失いたくないという男を演じている。
 今まで普通の男に扮したのをあまり観たことがなく、途中登場しないときでも再登場したらまるっきり違う風貌でいつ本性を現すのだろうか?と不安を抱きながら観ていた。妻の浮気を知ったときその片鱗が窺えたが、思ったよりまともでほっとする。

 ジョーに扮したE・オクセンボールドは事実上本作の主演。大人を向こうに回して一歩もひけを取らない好演で、将来が楽しみ。

 脇役では、車のディーラーでジャネットの浮気相手に扮したビル・キャンプが、金の力を誇示する如何にも女好きな初老の男を演じて存在感を示していた。

 何と言っても将来大監督となる期待充分なP・ダノの妥協のない監督ぶりが印象的。壮大で美しいがときに寒々しい原野風景や、それぞれの心情に沿った静謐な映像で一連のハリウッド作品とは一線を画した丁寧さに好感を持った。


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