・ バレリーナの夢を追いかけ、美しくて痛々しい思春期を描いたドラマ。
トランスジェンダーの主人公がバレリーナを目指し、本当の自分自身を生きる姿勢を描いた、ルーカス・ドン監督の長編デビュー作。カンヌ映画祭のカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞した。
バレリーナを目指す15歳のララ(ヴァンサン・ラコスト)は、父親マティス(アリエ・ワルトアルテ)の支えもあって難関のバレエ学校に転入する。
見た目は可憐な少女のララだが、男性の身体のトランスジェンダーのため二次成長を抑制するためにホルモン療法を受けながらのポワント(トウシューズでつま先立ち)の猛特訓を繰り返す。
映画化のきっかけは監督18歳のとき(09年)、バレエ学校の生徒ノラ・モンスクールが女子クラスへ編入を希望したことで問題となった体験談が新聞記事となったこと。以来9年掛かりで念願が叶ったという。
ダルデンヌ兄弟を始めベルギーの自然主義的表現によって人間を描く監督がもうひとり誕生した。
主人公ララを演じたのはロイヤル・バレエスクールのトップダンサー、ヴィクトル・ポルスター。バレエ学校の男性同級生役のオーディションに応募してきて監督の目にとまったという。
演技未経験ながら透明感ある繊細な表情や揺れる思春期の心情を見事に表現していて、まさにララにぴったりの演技だった。わずか三ヶ月の特訓でポワントをこなすのは文字通り血の滲むような努力のタマモノだ。
劇中、LGBT先進国ともいえるベルギーの様子が描かれている。18歳まで性適合手術は受けられないが医師とカウンセラーがつき適切な診断やアドバイスがされる。何よりタクシー運転手として働く父親の献身的な支えは並大抵ではない。ララの16歳の誕生日に呼んだ親戚も理解がある。
学校ではロッカー共有の賛否を挙手で問う先生の言動には驚かされた。バストにパット、股間にテーピングしてシャワーも浴びず文字通り血の滲む努力は実を結び舞台に立てるようになるが、クラスメイトの嫉妬や嫌がらせも・・・。
カウンセラーや父から恋の勧めもある。ララにも好意を持ったクラスメイトの男子がいたが、結果は自分への嫌悪感が・・・。
冒頭ピアスをしたララを注意した父にもう遅いというシーンがあるが、もっと衝撃的な自傷行為が終盤にある。自分で救急車を呼んだので手遅れにならないで良かった!
否定的な評価も観られる。多くは監督・主演がシスジェンダー(性同一人)で外見に固執している。自傷行為をドラマティックに見せるためだけで、トランスジェンダーを本当に理解していないというもの。
舌足らずの部分はあるものの、髪を切って颯爽と歩く続けるララのラストシーンは思春期の迷いを脱し女性らしく生きようとする女性の姿があった。