晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「her/世界でひとつの彼女」(13・米)70点

2015-11-05 12:37:02 | (米国) 2010~15

 ・ 奇才S・ジョーンズらしい近未来型ラブ・ストーリー

                   

「マルコヴィッチの穴」(99)、「アダプテーション」(02)で話題を呼んだ奇才スパイク・ジョーンズの4作目は近未来型ラブ・ストーリー。

 近未来のロスで妻と別れて暮らす男が、人工知能型OSと恋におちるというオタクっぽいストーリーだが、主人公・セオドアがホアキン・フェニックスでOSサマンサがスカーレット・ヨハンソンなので、一筋縄ではいかない。

 おまけに別居中の妻・キャサリンにルーニー・マーラ、友人・エイミーにエイミー・アダムスという旬の女優が扮しているので、主人公を巡っての複雑な恋の成り行きが展開されるのでは・・・。

 予想に反して、意外にもにもセオドアの純愛物語だった。相手はサマンサか?キャサリンか?それとも・・・。

 無機質な大都会で代筆ライターという仕事をしているセオドアは、現代のサラリーマンよりもっと単調な仕事にしか見えない。

 同じマンションに住むエイミー夫妻との交流も何故か淡泊で、エイミーの仕事もゲームのクリエイターというヴァーチャルの世界。

 セオドアは孤独を癒すためにハーバード大のエリート女性ともデートをするが、妻への未練があってのことか挫折。自宅でゲームをするが、ふと目に留まったのは人工知能型OSとのお喋りの広告。面白半分で訪ねてみると出てきたのが生身の女性よりハスキーボイスで魅力的。

 名前をサマンサと名乗るOSを携帯にダウンロードし四六時中話し相手になり、挙句の果てにはヴァーチャル・セックスまで!

 生身の女性とは遠慮したり意見が合わず喧嘩もするが、サマンサは至れり尽くせりで孤独を癒してくれ、仕事も励ましてくれる男にとって最高の存在。

 S・ジョーンズは近未来で男にとって理想の女とはどんな存在かを語りながら、現在の男にその理想像を問いかけている。

 姿のない相手と恋愛をするのは男でも女でも、どんなに理想的な存在でもやはり無理がありそうな気がするが・・・。 

 孤独な男を体全体で表現したJ・フェニックスと、声だけで充分ヒロイン役として想像を掻き立ててくれたS・ヨハンソンの好演も相俟って、近未来型純愛物語を楽しませてもらった。

 赤が映えるスタイリッシュな映像と、無機質だがソフトな音楽が繊細な美を醸し出していて、近未来を感じさせる。こんな世界に住んでみたいとは思わないが、見ている分には清潔感があってとても美しい。 

 要注意はヴァーチャル・セックス・シーンは音声だけなので却って生々しく、音量を上げて観ているとAVと間違えられそうで恥ずかしくなる。

 オスカー脚本賞を受賞しているが、英語が堪能でない筆者には字幕に付いて行くのが精一杯で、その良さまでは理解できなかった。

                

「青春群像」(53・伊)80点

2015-11-01 14:07:55 | 外国映画 1946~59

 ・ フェリーニ映画の原点が随所に見られる瑞々しい初期作品。

                   

 イタリア映画の巨匠で魔術師と言われたフェデレコ・フェリーニ。「道」(54)、「崖}(55)、「甘い生活」(59)、「8 1/2」(63)など枚挙に暇がないほど、映画ファンには見過ごすことができない監督。

 その彼が世界的に名を知られるようになったのが本作で、彼の自伝的要素を織り込んだともいわれる。

 第二次大戦後、北イタリアの港町(リミニ)で無為な日々を送っている5人の若者たちを描いて、彼らの不安や焦燥感が浮き彫りにされて行く。

 5人は最年長はまもなく30歳を迎えるファウスト(フランコ・ファブリーツィ)で、最も年下のモラルド(フランコ・インテルレンジ)の妹サンドラと結婚する。根っからのドンファンで、子供が生まれても病は治らない。

 アルベルト(アルベルト・ソルディ)は母と姉の3人暮らし。定職を持たず、姉に養われている身で脆弱な空想家。作家志望のレオポルド、歌が上手いリッカルドは望みがあるがどうしたらいいか分からない。

いい大人たちが、まるで乳離れしていない子供のようだと思ったが、原題「イ・ヴィタローニ」(雄牛)は<乳離れしない仔牛>のことだった。

 段々と内向的で難解なテーマとなって行くフェリーニ作品。その一連作品の面影を窺うような冒頭のミスコン、謝肉祭のバカ騒ぎや強風の浜辺など、バイタリティ溢れるシーンや詩情豊かな寂寥感が随所に見られる。

 大都会へ脱出することを願うモラルドがフェリーニの分身だが、ニーノ・ロータの音楽とともに、そのラストシーンが新しい人生を予感させてくれる。

 筆者には、「道」以外肌が合わなかったフェリーニ。この瑞々しい初期作品には好感を持った。