晴れ、ときどき映画三昧

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「君が生きた証」(14・米) 80点

2015-11-23 17:08:36 | (米国) 2010~15

 ・ 重いテーマなのに爽やかな、W・H・メイシー初監督の音楽ドラマ。

                  

 自信満々なアド・マンのサム。大口の受注に成功したサムは寮生活の息子ジョシュを昼食に誘う。ジョシュは現れず、レストランの大型映像に写し出されたのは息子の学校で起きた銃乱射事件だった。

 突然の事件で息子を失ったサムは、2年後はボート暮らしで日雇いのペンキ職人に変貌していた。そんななか別れた妻が、ジョシュの遺品整理で見つけた未発表曲のデモCDを持って現れた。

 遺された息子の歌を継いでいこうとするサム。その歌に魅了されたロック青年のクエンティン。疑似親子のような2人の再生と成長を描いたヒューマン・ドラマ。

 監督はウィリアム・H・メイシーでこれが初監督。「ファーゴ」(96)では気弱な中古車ディーラー役、「マグノリア」(99)では元天才クイズ王に扮し、強烈な印象を残した名脇役だ。

 序盤からさりげなく何か引っかかるシーンがあったが、観客は2人の男が未発表曲で結ばれ、ライブ・バンドを組み心が癒され、自信を取り戻して行く爽やかな音楽ドラマとして見守ってゆく。

 筆者もそのつもりで観ていたので、息子を失った哀しみのあまり新しい人生に向かって歩むことができない中年男の再生物語をストレートに表現した展開で、メイシーらしくないなと思っていた。

 原題「ラダーレス」は、<舵が効かずあてもなく彷徨う>という意味。2人のバンド名にしては不自然だと思っていたが、まさしくサム自身のことを指していた。

 ジョシュの葬儀や、会社に戻ったサムに何となくヨソヨソシカッタこと。TVリポーターの執拗な追っかけ。ジョシュのガールフレンドの悲しむ有様などなど・・・。事件の終盤でその謎が解け、序盤の引っ掛かりが全て氷解した。

 ケーシー・トゥエンター、ジェフ・ロビンソンというインディーズ系の共同脚本が、なかなかのものでメイシーはこのシナリオに惚れ込んで監督を買って出た。

 音楽は若者らしい素直で少し青臭い歌詞とシンプルな曲をソリッド・ステート(サイモン・ステッドマン、チャールトン・ペッタス)が担当していて、これがもう一つの主役ともいえる。

 主役のサムを演じたビリー・クラダップが素敵な中年男を演じ同情を惹きつけ、気弱で純粋なミュージシャン志望の若者クエンティンに扮したアントン・イェルチンに成長を願いながら物語を追ってゆく展開。吹き替えなしのライブ・シーンがリアル感を醸し出している。

 マトリック・シリーズでお馴染みのローレンス・フィッシュバーンが楽器店主役で、スパイスの効いたいい味を出しているのも印象的。

 メイシー監督もライブ・オーナー役、妻のフェリシティ・ハフマンがサムの別れた妻役で登場し、この作品への想いが伝わってくる。出番は少ないが、ジョシュのガールフレンド・ケイト役のセレーナ・ゴメスの変貌ぶりも見逃せない。

 未完成の曲にサムが歌う<息子よ、息子よ・・・>と繰り返すライブ・シーンに、重いテーマのこのドラマにひとつのあかりが灯されたように感じた。その後を撮影したがカットしたメイシー監督の英断に拍手!次回作が楽しみだ。