・ 全編ポルトガル・ロケによる、味わい深いラストシーン。
ポーランド映画監督といえば、アンジェイ・ワイダやロマン・ポランスキーを連想するが、近年若手監督の進出が目覚ましい。
パブリコフスキ「イーダ」、ピュプシツァ「幸せのありか」と並んで注目されているのが、本作のアンジェイ・ヤキモフスキ監督。
ポルトガルの首都リスボンにある視覚障害者施設に赴任した盲目インストラクターが、「反響定位」という手法で白い杖なしで歩き、外の世界に触れることの素晴らしさを子供たちに伝えるとともに、閉じこもりの女性との淡い恋物語を描いている。
「反響定位」とは、米国のコウモリ研究者ドナルド・R・グリフィンによって導入されたシステムで、音の反響を使って周囲にあるものの位置や距離・性質・大きさを明確にするというもの。
イアン(エドワード・ホップ)がいる隣の部屋に閉じこもっている女性エヴァ(アレクサンドラ・マリア・ララ)は、小鳥の餌やりで窓越しに互いを認識する。
イアンに誘われエヴァが街に出るとそこには様々な匂いや雑踏の賑わい、路面電車や車の音、木々の騒めき、鳥の鳴き声など様々な音が耳に入ってくる。外で食べるサクランボの新鮮な味わいにも驚く。
イワンはバーでワインを注文しながら、近くに港があって大型客船が出入りしているはずだとエヴァに語り、想像力を膨らませる。
港も船も映像にはないが、視覚で情報を得ている観客以上にイワンには古都リスボンの美しい風景が見えているのではないかと想わせる。
密かにイワンは目が見えているのではと疑う青年セラーノ・医師や修道士達の危惧もあって、イワンの指導は波乱のときを迎えることに・・・。
リスボンは、古くはヴィム・ヴェンダースの「リスボン物語」(94)、近くは「リスボンに誘われて」(14)など映画の舞台には魅惑的な都市である。
全編ポルトガル・ロケによる透明感溢れる自然光と、屋内の影と外からの光のコントラストある人物像は詩や絵画を想わせる。映像に重なる音響はひときわ臨場感を高め、まるで観客を現地に誘うようだ。
なにより感動的なのは余韻を持たせた味わい深いラストシーンで、監督の才能はここに集約されている。
国際色豊かなキャスティングでイアンのE・ホップはシェイクスピア俳優の英国人、エヴァ役のA・M・ララはルーマニア系ドイツ人女優で筆者には「ヒトラー最後の12日間」(04)での秘書役が印象深い。
ノンフィクションではないのに、人種の違う子供たちがコップに水を注ぐシーンなどで純粋な演技を魅せてくれ、思わず頑張れ!と応援したくなる。
オープニングに「私の妻エヴァに捧ぐ」とあるが、彼女がモデルではなくプロダクション・デザイナーとして映画製作に携わっている。苦楽を共にした感謝の意を示したのだろうか?これからも、このようなハートフルな作品を2人で作ってくれることを願っている。