晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「セッション」(14・米) 80点

2015-11-26 12:51:55 | (米国) 2010~15

 ・ 体験をもとに映画化した新鋭D・チャゼル監督のエネルギーが乗り移ったラスト・シーン。

                    

名門音楽学校に入学したバディ・リッチのようなドラマーに憧れる19歳の学生と学校で最高の指揮者との師弟関係を描いた音楽ドラマ。ラスト9分19秒が圧巻の人間ドラマとして前評判が高かった作品。

 監督・脚本は若干28歳のデミアン・チャゼルで自身の高校時代の体験をもとに書き起こしたオリジナルで、ジョニー・シモンズ、J・K・シモンズで映画化した短編「whiplash」の長編化。

 スポーツ・芸術・学会など、どの世界にも鬼教官は存在する。誰でも思い浮かべるのは、軍隊での訓練で映画では「愛と青春の旅立ち」(82)のフォーリー軍曹、「フルメタル・ジャケット」(87)のハートマン軍曹あたりが有名。

 その世界をそのまま音楽に置き換えた本作は、<才能ある若者と教官の師弟愛を描いた感動物語>を想定するが、見事に裏切られる。

 ニーマン(マイルズ・テラー)は音楽とは縁のない家庭環境に育ちながら、ドラムのセンスに長け憧れの名門シェイファー音楽学校へ入学。そこには屈指の指導者・フレッチャー教官(J・K・シモンズ)がいた。

 フレッチャーの目に留まったニーマンはスタジオ・バンド・メンバーとして順風満帆のスタートが切れたかに見えた・・・。

 とにかくフレッチャーの鬼教官ぶりが尋常ではなく、高圧的で罵詈雑言はもとより狂気としか思えない努力を強いる。並の人間ならシッポを巻いて逃げ出すのが普通だが、ニーマンは必死に喰らいついてゆく。

 ここからはジェット・コースター・ムービーでラスト9分19秒のクライマックスへ一直線。

 オスカー5部門にノミネートされJ・K・シモンズの助演男優賞、録音・編集の3賞を受賞している。恰好の宣伝となったのは14年1月上映以来、米国でのジャズ・ミュージシャンと映画評論家とのバトル。

 バトルは日本でも再現された。筆者はジャズには詳しくないが若い頃からイージー・リスニングとしてのジャズ愛好家。そんなジャズ音痴には、本作が音楽ドラマとして支離滅裂だという批判は、批評対象になるほど意味のある作品だということの証として興味を持たせてくれた。

 これには程遠いが、筆者の疑似体験は高校時代の数学教師で、当時としては珍しい草履履きで現れ、今朝はごはん3杯味噌汁2杯を食べたという自己紹介だった。答えができないと黒板に頭を擦り付け怒鳴りつける。苦手な数学が益々嫌いになった。でも今思うと努力した生徒には愛情溢れる言葉を掛ける熱血教師でもあった。

 近年では地元の高校が甲子園に出場したとき、監督は生徒のミスがあると椅子を投げつけたという伝説があり、本作でもフレッチャーが同じシーンがあってまんざら嘘ではないなと感じた。

 本作の評価は音楽の優劣より、疑似体験の有無で変わってくるように感じる。ドラマを支えたM・テラー、J・K・シモンズの熱演も見逃せない。

 時折見せる他人への優しさも持つ<只者ではないフレッチャーの人間性>を描写した若きD・チャゼル。大方の予想を超えたラストシーンで、ハリウッド期待の星となった彼の次回作に目が離せなくなりそうだ。