晴れ、ときどき映画三昧

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「こわれゆく女」(74・米) 80点

2014-10-18 12:50:53 | 外国映画 1960~79

 ・ カサヴェテス一家総出で作った、ある家族の物語。

                    

 インディペンデント映画の父ジョン・カサヴェテス監督7作目。ヴェネツィアで金獅子賞を獲得した「グロリア」(80)で名高いが、自分が撮りたい映画しか作らないので一般には馴染みが薄い。それ故マニアにとっては興味深い作品ばかりで外すことができないヒト。

 なかでも本作は、監督の自宅を抵当に入れ、盟友ピーター・フォークがコロンボで得た収益を投入し主演、愛妻ジーナ・ローランズが共演したことで、力の入れようが分かる。

 土木作業員のリーダー・ニックは、急な夜勤工事要請の電話を断っている。妻と2人で過ごすからと断って仲間から拍手を浴びている。専業主婦の妻メイブルは3人の子供を母に預け車を見送っているが、裸足でハイテンション振りに狂気の片鱗が窺える。

 ごく一般的な家庭の夫婦が行き違い溝が深まってゆくことを、カサヴェテスはこんなプロローグで容赦なくえぐって行く。

 邦題は「こわれゆく」だが、すでに精神を病んでいる女が夫の無理解から極限まで追い込まれて行くサマを描いてとてもシリアス。

 妻は夜勤の夫を待つ寂しさを癒すため夜の街をさ迷い、見知らぬ男と夜を共にする。夫は夜勤を断り切れず夜勤明けに仲間を自宅に呼んで朝食を振る舞う。2人で過ごす筈の夜は迷走し、出口が見つからなくなって行く。

 オールロケでドキュメントタッチの作風は、一家を取り巻く様々な人々をリアルに浮かび挙がらせる。ニックの母を演じているのは監督の実母でJ・ローランスの姑でもあるキャサリン・カサヴェテス。安心して子供を任せられないとニーナを隔離しようとする姑役は妙な緊張感を持って観てしまう。

 のちに監督となったニックとアレクサンドラの2人の子供も端役で出演し、さらにメイブルの母親役はジーナの実の母レディ・ローランズが演じていて、まさに一家総出で作り上げた家族愛の物語となった。

 いつ破滅を迎えてもおかしくないニック一家。不器用で愛情表現が稚拙な夫と、<白鳥の湖>が好きな子供時代に不幸な出来事を体験した妻。生まれも育ちも違う夫婦は小さな子供3人がカスガイとなり、愛情を確かめながらエピローグを迎える。

 結末が見えないまま、一家のこれからが想像できそうなエンディングは、現代社会での愛情の探求を求めてやまないカサヴェテスらしい人間描写の傑作だ。