名探偵再登場
1978年/アメリカ
ハードボイルドが好きなら面白いかも
shinakamさん
男性
総合 70点
ストーリー 70点
キャスト 80点
演出 70点
ビジュアル 70点
音楽 70点
「名探偵登場」のコンビ、ニール・サイモン脚本ロバート・ムーア監督によるハードボイルドのパロディ。主演はピーター・フォークで「マルタの鷹」のサム・スペードと「カサブランカ」のボギーことリークを演じたハンフリー・ボガートに成り切っている。探偵の名はペキンポーでタクシーのチップは絶対払わない。
正直、何処までが面白いかは観るヒトによって違いハードボイルドに詳しくパロディが肌に合う限定者向けの作品。
女優陣が多士済々で、N・サイモン夫人でもあるマーシャ・メイソン、ルイーズ・フレッシャー、名前が多い依頼人マデリーン・カーン、忠実な女秘書ストッカード・チャニング、収集家の若い妻アン・マーガレットなど探偵で容疑者のペキンポーに入れ替わり立ち替わり絡んでくる。P・フォークは真面目に持て男を演じて、そのスタイルは最後まで崩れなかった。
ヤコブへの手紙
2009年/フィンランド
シンプルなメッセージだが奥深い小品
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 85点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 85点
フィンランド映画といえば、アキ・カウリスマキ以外思い浮かばないが、クラウス・ハロはこれから目が離せない北欧の監督であろう。75分という小品だが、シンプルなメッセージなのに奥深い。
終身犯のレイラ(カリーナ・ハザード)は模範囚で12年の服役後恩赦となり釈放される。姉がいるらしいが帰るところではなさそうで、所長が勧めてくれた牧師館で住み込みの仕事をすることに。仕事とは盲目の老牧師ヤコブ(ヘイッキ・ノウシアイネン)宛ての手紙の代読と返書をすることだった。誰にも言えない悩みを手紙にしたため打ち明ける相談内容に、丁寧に聖書を引用したアドバイスをするヤコブ。信仰と向き合い隣人を愛する敬虔な牧師であるヤコブに対し、信仰を持たず希望と愛を持とうしない無愛想なレイラ。届いた手紙の何通かは汚物貯水槽へ捨ててしまうほど。2人の関係はとても長続きしそうもない。レイラは手紙を届ける郵便配達人(ユッカ・ケイノネン)ともウマが合わず、お互い疑心暗鬼に。
時代も場所も明確には分からず、ほとんどが2人の静かな言動でぐいぐい引き込んでゆくシナリオは魅力的。ヤーナ・マッコネンの原案・脚本に惚れ込んだハロ監督が脚本に参画し、心が洗われる感動ドラマに仕上がっている。ハロ監督が持つ人生感<世間から断絶して必要とされていないヒトはいない。誰の役にも立たない人間はなく存在意義は必ずある。>が大いに反映されている。
孤独なのはレイラだけではなく、ヤコブも孤独な人間だった。手紙がこなくなった途端気の毒なほど落ち込み老けこんでゆくヤコブ。初めて手紙は自分のためだったことを知り、聖書をただ引用して善意を押し売りすることの無意味さを悟る。それはレイラの頑なに閉ざされた心にも沁みいり、思わぬ行動につながってくる。信仰と希望だけでは人間の孤独は癒せない。最も大切なのは愛であるというメッセージでもある。雨の音とショパンのノクターン、ベートーベンのト長調メヌエットが白樺林に囲まれた静かな村に響き心が洗われてくる。
出演者はフィンランドでは有名な俳優のようだが、筆者には予備知識がない分役柄に溶け込んでいるように思えた。
ただ郵便配達人の言動には謎が多く、夜中に忍び込んだのは?自転車が新調されたのは?手紙が急にこなくなったのは?と観客の想像力を試すようなシークエンスが気になった。
赤いアモーレ
2004年/イタリア
美しいP・クルスの新境地
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 80点
マーガレート・マッツアティーニ原作のベストセラー小説「動かないで」を夫君のセルジオ・カステリットが監督・脚本・主演の3役を務めた愛のドラマ。エリートの外科医ティモーティオ(S・カステリット)が美しい妻エルサ(クラウディア・ジェリーニ)を持ちながら偶然出会った社会の底辺に暮らす貧しい女(ペネロペ・クルス)を衝動的に犯すが、何故かどんどん惹かれてゆく。女の名はイタリアで、自分の運命を受け止めながら決して必要以上のものを欲しがらない。ひたすらティモティーオを受け入れる。その一途さがティモティーオをトリコにしてしまう。
まるでイタリア版・渡辺淳一の不倫ものだが、達者な3人の演技と回想シーンを巧く取り入れたシナリオ・美しい映像・ルチオ・ゴドイによる切ない音楽で120分を別世界に浸らせてくれる。
P・クルスはイタリア語を完璧にこなしているそうで、女優魂をこめた貧しい女に成りきっている。前歯の隙具合、ガニマタで走る姿は美しい女を演じてきたP・クルスの新境地。子供を中絶することが罪であるカソリックの国イタリア。その名を持つ女の妊娠は、悲劇への始まりである。高潔な女の美しさを魅せてくれたP・クルスなくしてこの映画は成立しなかった。このほどJ・バルベムと結婚し第1子が誕生した彼女はこの作品をどう思っているのだろう。
地中海殺人事件
1982年/イギリス
コール・ポーターの音楽と地中海リゾートを満喫
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 85点
アガサ・クリスティの「白昼の悪魔」を「ナイル殺人事件」に続いてアンソニー・シェファー脚色、ピーター・ユスティノフ主演、「クリスタル殺人事件」のガイ・ハミルトン監督で映画化。
地中海に浮かぶ孤島にあるリゾート・ホテルで女優のアリーナ・マーシャル(ダイアナ・リグ)が何者かに殺害される。そこにはアリーナに恨み・憎しみを持つ人々が集まっていたが、全員にアリバイがあった。名探偵ポアロは真犯人を捜し出しホーレス卿(コリン・ブレークリー)から依頼されたアリーナに渡した20万ドルの宝石を取り戻せるだろうか?
ポアロに扮したはP.ユスティノフは大柄で原作とはイメージが違うが、可愛らしさがありその包み込むような雰囲気は悪くない。女優陣の華やかな衣装・演技比べが見どころのひとつ。元ボンド・ガールのD・リグは殺されるのがモッタイナイ?ほどの容姿で40代半ばとは思えない。演技も確かで舞台女優として活躍しただけはある。
ホテルの女主人を演じたのがマギー・スミス。元女優だったという役柄がぴったりでD・リグとのさや当ては地を行くような火花が散っていた。もうひとり欠かせないのはラテン語教師の妻・クリスティン役のジェーン・パーキン。病弱で地味な服装が終盤艶やかに変身、M・スミスに服装がダサイとのコメントまで。
何よりマヨルカ島でロケした紺碧の海に「ビギン・ザ・ビギン」「エニィシング・ゴエス」「ナイト・アンド・デイ」などコール・ポーターの名曲が流れリゾート気分を満喫させてくれる。ホテルの記帳にコール・ポーターの名があったのはご愛嬌だが、M・シュバリエ、F・アステア、C・チャップリン、M・デートリッヒまであったのはサービス過剰?
肝心の謎解きはポアロのたたみ掛けるようなトリック解析のシークエンスで一件落着。宝石は何処から見つかるのあろうか?最後まで目が離せない。
ソーシャル・ネットワーク
2010年/アメリカ
時代の寵児を描いた青春ドラマ
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 80点
今年のアカデミー賞の最有力候補作品で、昨年の東京国際映画祭の特別招待作品でもある。デヴィット・フィンチャー監督でなかったら見過ごしたかもしれない、時代の寵児SNS「フェイス・ブック」の創設者マーク・ザッカーバーグを中心とした青春ドラマ。
ガールフレンドにフラレ腹いせに「フェイス・マッシュ」を思い立ったマーク(ジェシー・アイゼンバーグ)。ハーバード大のサーバが故障してしまったこのサイトは深夜にもかかわらず立ち上げて2時間で2万2000のアクセスがあった。時代を象徴するシーンで幕が開くこのドラマは事実とフィクションをない交ぜにして、あっという間に世界で5億人が会員になる勢いを感じさせる2時間でもあった。
ITオタクが大金持ちになったという皮肉な見方もあるが、ビル・ゲイツ、スティーヴ・ジョブスを追いかけ、もっとも若い億万長者となった男に「何かを創る能力の高さ」と米経済の仕組みの潮流を感じざるを得ない。単なる天才ハッカーで終わるかもしれないマークの創作性とスピード感は現代社会のニーズを的確に捉えていた。これこそファッションでウィンクルボス兄弟のエリート意識や共同創設者エドゥアルド(アンドリュー・ガーフィールド)の固定観念とは決定的な相違があった。唯一共感できたのは19歳で無料音楽配信サイト「ナップスター」を創設したショ-ン・パーカー(ジャスティン・ティンバーレイク)の創造性。2人の違いはベンチャー・キャピタルと対立したショーンと上手く対応できたマークの差だが、ここでは描かれていない。
アーロン・ソーキンの脚本は、エドゥアルドの協力で描かれ、マークおよびフェイス・ブックの協力は得られていない。マークを人間関係を持つことが下手で強弱と純粋さと強引さを併せ持つ自信家で孤独な人間として描いている。人間関係をつなげる電子化サービスを創設した寵児・マークの複雑な性格を描くことによって米国での高い評価につながっているのかもしれないが、あまり詳しくない筆者には良くできた青春ドラマにしか見えなかった。D・フィンチャーは殴り合うことで人間関係を繋げる「ファイトクラブ」を作ったひと。ヴァーチャルな世界をどのような気持で監督したのだろう。
名探偵登場
1976年/アメリカ
徹底したパロディと豪華キャスト
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 80点
音楽 80点
劇作家ニール・サイモンが探偵小説をパロディ化したナンセンス・コメディ。5組の名探偵がトランクから現れるチャールズ・アダムスのタイトルバックが楽しく、ミステリー・ファンを喜ばせてくれる。その5組とはアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロ、ミス・マープル、E・D・ビガーズのチャーリー・チャン、ダシール・ハメットのサム・スペード、ニック&ノラのチャールズ夫妻。もちろんパロディなので少しずつ名前を変えている。プロットはクリスティお得意の密室殺人事件風で、大富豪が晩餐と殺人事件の招待状を送りこれから起こるミステリーを謎解きさせようとする。
何しろ豪華キャストが嬉しい。ピーター・セラーズ(チャーリー・ワン)、デヴィッド・ニーヴン(ディック)、マギー・スミス(ドラ)のチャールズトン夫妻、ジェームス・ココ(ミロ・ペリエ)、ピーター・フォーク(サム・ダイヤモンド)エルザ・ランチェスター(ジェシカ・マーブルズ)に加え盲目の執事役にアレック・ギネス、極めつけは大富豪ライオネル・トウェイン役に作家のトルーマン・カポーティとくれば、それだけで驚きのキャスティング。付録としてペリエの運転手で「ベイブ」のジェームズ・クロムエルが映画初出演している。
なかでもピーター・セラーズのワンはモデルを知らなくても独特の風貌とセリフ廻しで、このパロディの中心的存在。最初は誰が演じているのか見分けがつかなかった。ピーター・フォークはハンフリー・ボガートが「マルタの鷹」で演じたサム・スペードより「コロンボ」のイメージが強過ぎて損をしてしまった。
良質とはいえパロディなので、真面目なミステリー・ファンはおちょくられたような気分がして怒り出すかもしれないが、名優たちが楽しげにその役を演じているだけでも貴重?であり、T・カポーティが唯一出演している映画としても意義深い?作品。登場人物の雰囲気を盛り立てるデイヴ・グルーシンの音楽も聴きどころのひとつ。
「バーバー吉野」「かもめ食堂」の荻上直子監督が南の島に舞台を移して癒し系作品。企画・霞澤花子の名があるが、日本テレビで放送され、低視聴率ながら評判になったドラマが原形であるため。小林聡美、市川実日子が映画でも出演している。
南の島へやってきたタエコ(小林聡美)は民宿ハマダの主人ユージ(三石研)に迎えられるが、不思議な先客サクラ(もたいまさこ)や高校教師ハルナ(市川実日子)の日常に馴染めない。
「かもめ食堂」と同じ異空間で出会った人との交流は言葉より、美味しい食事と共有する空気感であることを南の島で訴えてくる。この独特の空気感に浸ることができないと作品は眠くなるだけの展開のまま116分が終わってしまう。
毎日に忙殺されふと人生に疑問を感じたひとが旅に出て、ゆったり・まったり過ごしたいと思っているにはぴったりの作品だろう。堤防で釣り糸を垂れるユージはかつての自分が憧れた世界だったかもしれない。毎日が日曜日の筆者には、かつてこんな気持ちになった懐かしい気分が蘇る。
たそがれるためにやってきたのでは?といわれ、かき氷が嫌いで、メルシー体操なる奇妙な毎朝の浜辺の体操も拒否していたタエコ。大学の文学部教授らしい彼女の頑ななココロが溶けてゆくさまが心地良い。マリン・パレスの女主人(薬師丸ひろ子)が経営するもうひとつの民宿では決して癒されることはない。
不思議な存在感の、もたいまさこが無くしてはこの作品はありえないだろう。