「バーバー吉野」「かもめ食堂」の荻上直子監督が南の島に舞台を移して癒し系作品。企画・霞澤花子の名があるが、日本テレビで放送され、低視聴率ながら評判になったドラマが原形であるため。小林聡美、市川実日子が映画でも出演している。
南の島へやってきたタエコ(小林聡美)は民宿ハマダの主人ユージ(三石研)に迎えられるが、不思議な先客サクラ(もたいまさこ)や高校教師ハルナ(市川実日子)の日常に馴染めない。
「かもめ食堂」と同じ異空間で出会った人との交流は言葉より、美味しい食事と共有する空気感であることを南の島で訴えてくる。この独特の空気感に浸ることができないと作品は眠くなるだけの展開のまま116分が終わってしまう。
毎日に忙殺されふと人生に疑問を感じたひとが旅に出て、ゆったり・まったり過ごしたいと思っているにはぴったりの作品だろう。堤防で釣り糸を垂れるユージはかつての自分が憧れた世界だったかもしれない。毎日が日曜日の筆者には、かつてこんな気持ちになった懐かしい気分が蘇る。
たそがれるためにやってきたのでは?といわれ、かき氷が嫌いで、メルシー体操なる奇妙な毎朝の浜辺の体操も拒否していたタエコ。大学の文学部教授らしい彼女の頑ななココロが溶けてゆくさまが心地良い。マリン・パレスの女主人(薬師丸ひろ子)が経営するもうひとつの民宿では決して癒されることはない。
不思議な存在感の、もたいまさこが無くしてはこの作品はありえないだろう。