晴れ、ときどき映画三昧

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「火垂るの墓」(08・日) 60点

2015-08-31 16:02:14 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 黒木和雄の遺志を引き継いだ日向寺監督の戦争悲話。

                   

 自らの戦争体験をもとにした野坂昭如の直木賞受賞・短編小説(68)が原作。すでに高畑勲監督でアニメ化(88)され<一番泣ける映画で二度と見たくない映画>と言われ大ヒットした。

 さらに松島奈々子主演でTVドラマ化(05)され評判を呼んでいて、実写版は相当の期待とハンデを負っての登場。<戦争レクイエム三部作>など反戦ドラマを熱心に映画化していた故・黒木和雄の遺志を継いで愛弟子・日向寺太郎が監督している。

 太平洋戦争末期、神戸の大空襲で中学生の清太(吉武怜朗)と4歳の節子(畠山彩奈)は優しかった母・雪子(松田聖子)を亡くし、西宮の叔母(松坂慶子)の家を頼ってリヤカーで向かう。

 叔母は追い返そうとするが、食料を持ってきた兄妹を見て引き止める。戦禍のなか、兄妹を通して市井の人々が悲惨な暮らしをする姿を、かなり淡々と描いている。

 泣かせるアニメや叔母から見た兄妹のTV版とは違って、清太という少年から見た戦時中の大人の世界が繰り広げられて行くストーリー。

 軍人の家に生まれ比較的恵まれた家庭で育った兄妹が、皮肉にも戦争で孤児となり心から頼れる大人が不在となってしまう。ここでは、叔母が非情な大人の象徴として冷たい仕打ちがエスカレートして憎まれ役となっている。大なり小なり身内を守るための行為は現実のものだったはずだった時代でもあったが・・・。

 松坂慶子は、渋々引き受けた敵役だったが、新境地を拓くキッカケとなった気がする。母親役の松田聖子は7年ぶりの映画出演だったが、話題づくり程度の役割で無難なところ。

 親切な中学の校長・本城(江藤潤)一家は、家を無くした人々が学校で暮らすことを黙認した結果、自炊の火の不始末から校舎を焼失させてしまう。責任を取って一家は自殺するという悲惨な結果に。現在では信じられない行動だが、世間の厳しい目と教育者という立場で家族まで犠牲にする理不尽さが切ない。

 ほかにも若い未亡人(池脇千鶴)の家に入り浸りの病弱な学生(山中聡)は、虚無的な暮らしを晒し純粋な清太を傷つけ、防火訓練を陣頭指揮する町内会長(原田芳雄)らの不興を買う。

 清太は唯一よき理解者だった本条校長を真似て、理想を追って家を出たのだろう。

 東京大空襲のとき母親の背におぶさってB29からの焼夷弾投下を逃げ回り、着物を売ってミルク代に変えたと聴かされた筆者にとって、節子はもしかすると分身だったかもしれない。

 本作は、映画としての出来よりも佐久間ドロップの缶を知っている自分には、キャッスル・イン・ジ・エアのピアノとギターの音とともに、涙なしでは観ることはできない作品でもある。
 


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