晴れ、ときどき映画三昧

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「サイの季節」(12・イラク/トルコ)80点

2015-12-19 18:02:33 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 3人の心象風景を詩的に描いたゴバディ監督の人間ドラマ。

                   

 イラン映画といえば、ひところ子供を主題にした作品でそのレベルの高さを世界に伝えていたが、イラン・イスラム革命(79)後の政府によって表現規制されていたためでもあった。

 本作のバフマン・ゴバディ監督は次の世代(69年生まれ)で、「ペルシャ猫を誰も知らない」(09)というセミ・ドキュメントを撮って祖国へ戻れなくなった人。

 ゴバディは、クルド系イランの詩人サデック・キャマンガールが27年間投獄されたという事実をもとに映画化したという。本作では彼の思いが込められた詩的な作品で、主演はイラン70年代の大スターであるベヘルーズ・ヴォスギー。

 B・ヴォスギー扮するサヘルが刑務所を釈放されたシーンから始まるこのドラマは、その妻ミナ(モニカ・ベルッチ)と元運転手で革命後・指導者となり夫婦に嫉妬するアクベル(ユルマズ・エルドガン)の愛憎劇。

 シンプルだが、革命に翻弄されたサヘル・ミナ夫婦と執拗にミナに纏わりつく男アクベルの30年間を、時代を行き来しながらじっくりと追いかけていく。

 時折、唐突に動物が出てきて詩が読まれたりするので正直戸惑う展開だが、幻想的な映像は詩人である主人公の心象を比喩的に表現しているのだろう。

 マーチン・スコセッシが絶賛したという本作は、B・ヴォスギーの<苦悶した表情のアップによる間と沈黙>に何とも言えない想いを感じる。彼自身の境遇と重なる部分があるのだろう。

 20代から50代を独りで演じきったモニカ・ベルッチの美しさを再認識させられた作品でもあった。この後50歳でボンドガールを演じるM・ベルッチは、まさに<イタリアの宝石>だ。

 それにしても、権力者の変遷で境遇が反転してしまう社会は、言いようのない酷い世界であることを改めて知らされた。
 
 


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