晴れ、ときどき映画三昧

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「海の上のピアニスト」(98・伊 米) 80点

2014-08-22 17:24:14 | (欧州・アジア他)1980~99 

 ・ 抒情的で哲学的なトルナトーレの大人向けファンタジー。

                    

 「ニュー・シネマ・パラダイス」(89)でイタリアを代表する監督となったジュゼッペ・トルナトーレ。舞台化もされているアレッサンドロ・バリッコの幻想小説を独自のアレンジで映像化した、抒情的かつ哲学的大人向けファンタジー。

 1946年豪華客船ヴァージニア号の楽団員として働いたトランペッターが語ったのは、生まれて一度も船から降りたことのない伝説のピアニストの物語だった。

 1900年に生まれた男の子はヴァージニア号の大宴会場のピアノの上で黒人機関士ダニーに発見され、通称1900として育てられた。不慮の事故でダニーが亡くなったあとも船で暮らすうち、天性の感性でピアノ弾きとしてその名を知られるようになって行く。

 実際あり得ないような男の寓話の映画化に食指が動かなかった筆者だが、トルネトーレの近作は幾つか観ていて今回漸く観る機会があった。

 イタリア語版は160分あるそうで彼の趣旨が充分伝わるのだろうが、残念ながら日本では観る機会がない。ハリウッド版の本編でも、イタリアの香りが充満して雰囲気は満喫できた。

 豪華客船による船旅は上流観光客から貧しい移民まであらゆる層の人間が、限られた時間・空間で混在する特殊社会を形成している。ここにはサマザマなドラマが誕生してもおかしくない。同じような作品に大ヒット作「タイタニック」(97)があった。SFXを駆使したパニック映画はアイルランドの画家志望の青年と上流社会の女性との純愛ドラマで、多くの人の感涙を誘っている。

 本作は背景が似ているが、SFXやパニックものとは違う世界を描いていて、感涙を誘う暇もなく人間の在り方をズバリ衝いてきて、何ともいえない感銘を受けた。やはりトルナトーレはどの作品でもシチリア人で、巨匠エンニオ・モリコーネの音楽が陰に陽に絡まって物語に深みを増している。

 筆者はいつの間にか主人公が実在の人物のように思えてしまって、ジャズの創始者と自称するモートンとのピアノ競演に力が入ったり、船内で見かけた美しい少女とのプラトニックな恋の実現を応援したりする自分がいた。ペーソス溢れるエピソードは、オペラ的雰囲気も感じる。

 主人公を演じたティム・ロスは、繊細な天才ピアニストをしなやかな指と感情こまやかな表情で演じ切り、彼の代表作となった。

 語り部でもあり、親友のマックス役のプルイット・テイラー・ヴィンスがはまり役で、「ニュー・シネマ・パラダイス」のアルフレード役のフィリップ・ノワレなどトルナトーレはこうした脇役を起用するのがとても巧みだ。

 <いい物語があってそれを語る人がいる限り、人生捨てたもんじゃない>という言葉は彼の映画作りの原点なのかもしれない。


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