・巨匠が描いた緻密な虚構の世界。
イタリアの巨匠パオロ・ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟がベルリン国際映画祭で金熊賞を獲得した異色作。題名にあるとおり、刑務所内で受刑者たちが演ずるシェイクスピアの名作「ジュリアス・シーザー」の舞台を描いたもの。2人とも80歳を過ぎてこのような緻密で意欲的な作品を出すエネルギーに敬意を表すが、筆者の好みではなかった。
第5幕第5場で始まる舞台は観客のスタンディング・オベーションで大好評のうちに幕を閉じる。演じた俳優達は大満足だったが、終了後は大人しく列をなして監房へ戻って行く。固く閉ざされたドアと施錠の音が鳴り響き、ここで観客は俳優達が受刑者であることを知らされる。ローマ郊外のレビッビア刑務所では演劇実習を更生プログラムにする試みがあること知った監督が実際に観て映画化を提案したという。ここから画面はモノクロに替わり6カ月前に遡って本番までが繰り広げられる。
筆者は予告編を観て彼らが受刑者であることを承知で鑑賞していたので、勝手にドキュメント・タッチで彼らの犯罪がどのような経緯かが描かれ、如何に舞台に立ったのかを想像したが、期待外れだった。
オーディションが始まり彼らが殺人・組織犯罪・麻薬売買の受刑者であることは間違いない。が、よりによって彼らが裏切りと暗殺の物語「ジュリアス・シーザー」を演じるのは製作者の意図的なものを感じる。
現に彼らは玄人裸足で素晴らしい演技を見せる。虚構である台詞と現実との境界で演技を中断したり、喧嘩をしそうになったりする。それがシナリオ通りで本当のことではないのでは?現にブルータスを演じた受刑者は本当の俳優になったイタリア版・安藤昇である。
巨匠2人が描きたかったのはローマ帝国の世界を刑務所という特殊な場所(監房・廊下・踊り場・中庭)を自由に舞台化することで醸し出される独特の空気感である。現実と虚構の境界線を取り払うことで時空を超えて<本当の自由と解放とは?>を観客に思考させようとしたのだと感じた。
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