晴れ、ときどき映画三昧

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「血槍富士」(55・日) 80点

2017-07-10 16:51:36 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

 ・ 巨匠・内田吐夢監督の復帰第1作は人情時代劇。


   

 「飢餓海峡」(64)、「宮本武蔵」(61~65)などの巨匠・内田吐夢が中国抑留から帰国して2年後、復帰第1作となったのは、井上金太郎監督「道中悲記」(27)のリメイク。

 溝口健二・小津安二郎・清水宏・伊藤大輔の4人が映画化を企画、当時大衆娯楽時代劇の新興映画会社であった東映プロデューサー・マキノ光雄が内田を指名した。

 東海道を江戸に向かう若侍の槍持ち・権八が道中関わる様々な人々の人間模様を描きながら、酒の諍いから主君を殺され仇討ちをする姿を通して封建制度を風刺する人情時代劇。

 主君酒匂小十郎(島田照夫)は権八(片岡千恵蔵)・源太(加東大介)のお供に思い遣りのある優しい主君だが、唯一の欠点は酒癖が悪いこと。

 源太を連れ出し居酒屋でひと悶着があり、権太を心配させる。

 道中出会ったのが孤児で宿無しの次郎、旅芸人おすみ母娘、身売りする・おたね(田代百合子)と年老いた父親、大金を持ち歩く藤三郎と相部屋になった小間物屋の伝次(加賀邦夫)、あんまの藪の市(小川虎之助)、巡礼(進藤英太郎)など色とりどり。

 次郎は権八に憧れどこまでもつ付いてきて、まるで親子のよう。次郎を演じた植木基晴は千恵蔵の実子なので微笑ましい。

 おすみ(喜多川千鶴)とはチョッピリお互い好意を持ち、道中別れるときは寂しそう。旅芸で披露する<奴さん>は権八を連想させる。ちなみに踊っていたのは千恵蔵の娘・植木千恵だ。

 藤三郎を演じたのは名優・月形龍之介。強盗風の元右衛門では?と怪しまれる。井上作品では主人公権八に扮しているだけあって、ここでも重要なエピソードを披露してくれる。

 それぞれの人物が繋がりほのぼのとして終盤を迎えるが、クライマックスで御大・片岡千恵蔵最大の見せ場が必死の形相で槍を振り回す壮絶な殺陣のシーン。

 戦前の名匠・山中貞雄を連想させるこのシーンは東映時代劇にはないリアルな新風を送り、西部劇「シェーン」と重なるラスト・シーンと併せ、ブランクを感じさせない内田の健在ぶりを魅せている。

 
 


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