晴れ、ときどき映画三昧

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「素晴らしき日曜日」(47・日)80点

2015-12-23 11:57:00 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

 ・ 敗戦直後の東京、貴重な映像遺産となった黒澤明監督の<愛の物語>。

                   

 黒澤明監督の戦後2作目は、幼馴染み植草圭之助シナリオによる、<男女の愛の物語>。

 終戦直後の混乱期東宝のストライキもあって、充分な撮影体制が整っていないこの時期、黒澤はそれを逆手にとって、オールロケ作品に挑んだ作品でもある。

 結果上手くいかない部分もあって、一部セット撮影を余儀なくさせられたものの、東京の映像は貴重な文化遺産となっている。

 ある日曜日、満員電車から上野駅に降り立った若い女性(昌子)がいそいそと雑踏の中を歩いているシーンから始まるこのドラマ。

 待ち合わせ場所の若い男(雄造)は、人目を憚りながら落ちていた吸い掛けの煙草を拾おうとしていた。貧しい2人のランデブー(デート)を追いかけながら、当時の世相を描いた心温まる1日。
 
 この頃筆者は3~4歳だったのでリアルタイムでの実感はないものの、本作を見ながら上野駅の雑踏や浮浪児がいたこと、空地では草野球をしたことなど・・・蘇ってきた。

 若い2人は金もなく、「新興模範住宅」(モデルハウス)で夢を語り、安アパートを訪ねたりしながら住まいを探すが、とても手が届かない。知り合いのキャバレー(ダンスホール)を訪ねればタカリと間違えられ、雄造(沼崎勲)は「こんな時代、闇屋でもやらなきゃまともな暮らしもできやしない」と嘆く。

 いじける雄造を励ましながらあくまでもポジティブな昌子。雨の中日比谷のコンサート会場目指し駆ける2人はびしょ濡れになりながらも楽しそう。

 そのコンサートもダフ屋に阻まれショゲカエル雄造は、友人と同居しているアパートでラブコール。現在とは隔世の感ある男女間は、これでも大いに話題になったという。

 脇役女優で地味な顔立ちの中北千枝子が、とてもイジラシイ演技を魅せている。

 最も話題となったのは、コーヒーショップ「ヒヤシンス」の夢を語り合うパントマイムと、日比谷野外音楽堂でのラストシーン。

 雅子が観客に向かって「どうか拍手をしてください・・・。」と叫び、「未完成交響曲」が高らかに流れるのは、ささやかな幸せを願う庶民への純粋な応援歌。

 黒澤には映画館での観客が万雷の拍手を聴こえていたに違いない。筆者が映画館で拍手・歓声を送ったのは、アラカンの鞍馬天狗が杉作を救うため馬で駆けつけるシーンだったのを思い出す。

 資料によると当時の日本人は拍手をするのは照れ臭く、あってもパラパラだったという。のちにフランスで上映されたとき、万雷の拍手を目撃した黒澤の嬉しそうな笑みが目に浮かぶ。
 
 



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