晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「孤独な天使たち」(12・イタリア) 75点

2013-04-28 20:38:48 |  (欧州・アジア他) 2010~15
・帰ってきたベルトリッチの青春映画。

  

 「ラスト・タンゴ・イン・パリ」(72)「ラスト・エンペラー」(87)など、イタリア映画界の巨匠が「ドリーマーズ」(03)以来10年振りに帰ってきた。ベルナルド・ベルトリッチの新作は青春映画だ。
ヘッドフォンで周りの社会から遮断してきた14歳の少年・ロレンツォ。学校では友達との交流はなく、心配した母親は精神科医通いをさせるが、殆ど感心を示さない。ところが、スキー学校へ行くと言いだし母親を喜ばせる。少年は母子家庭ではないらしいが、殆ど家に帰らず父と子の触れ合いもなさそうだ。ロレンツォは嘘をついてアパートの地下室で1週間一人だけの時間を過ごす計画だった。
そこへ突然侵入してきたのは異母姉・オリヴィア。久しぶりに会った義姉は、今まで会ったことがない異星人のような奔放なヒトだった。閉ざされた密室で二人きりになったロレンツォの戸惑い・困惑は想像に難くない。ヘロイン中毒で住む場所がないという。追い出そうにも弱みを握られた彼はおかしな協力者となる。困惑から同情に移り追い出すことより睡眠薬や食料を調達して協力することで他人のために行動することで少し大人になった気分になる。そして二人で過ごす空気には思慕にも似た感覚も漂う。

 重い病で車椅子生活を余儀なくされたベルトリッチは映画作りを断念していたが、ニコロ・アンマニティの小説を読んで復活を決意したという。自らの少年時代の想いも投影しながら73歳のエネルギーを降り注いで若い感性を失うことなく完成させた。それは若者への成長を託したメッセージでもあった。敢えて原作とは違うエンディングは再生を願うベルトリッチの祈りのようだ。

 ロレンツォを演じたのはオーディションで選ばれた当時主人公と同じ年のジャコポ・オルモ・アンティノーリ。青い瞳で巻き毛のニキビ顔、無精ひげがチラホラの多感な少年そのもの。その演技はベルトリッチを感心させたプロだった。オリヴィアもオーディションから選ばれたテア・ファルコ。本職は写真家・映像アーティストで、登場したトキの黒い天使のようなファッションとニット帽を外したときの金髪が存在感を放っていた。<18歳のとき賞をもらった元写真家>というのは彼女自身のことでもあり、豊かな感性そのものの演技だ。

 ベルトリッチの期待に応えたスタッフたちの頑張りも目に付いた。大半が地下室という密室での映像を夢の空間として再現させた撮影のファビオ・チャンケッティや美術のジャン・ラバス。若い2人の心の内を魅惑的に表したフランコ・ピエルサンティ。とくにオープニングで流れるザ・キュアの「ボーイズ・ドント・クライ」と2人で踊るシーンで流れるデヴィッド・ボウイの「ロンリーボーイ、ロンリーガール」が映像と絡み合い台詞を超える感情となって溢れ出てくる。

 エネルギッシュで詩情豊かな往年とは違うが、みずみずしいベルトリッチに再会できたことが嬉しい。

 


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