・ 川端文学を女性目線の成瀬流で映像化。
小津・溝口・黒沢に続く四大巨匠・成瀬巳喜男監督が、川端康成の同名小説を水木洋子脚色で映像化。「めし」(51)で夫婦に扮した原節子・上原謙が再び夫婦役を演じている。
戦後の鎌倉に、息子夫婦と同居している信吾(山村聰)は老いを感じながら、若い頃想いを寄せていた妻・保子の姉に面影が似ている嫁の菊子(原節子)を何かと気にしている。
菊子は夫・修一(上原謙)に愛人がいるのを感じながら、つつましく揺れ動く内面は隠し明るく振舞っている。
老いとともに近づく死への恐怖と寂寥感漂う男を主人公に、嫁との精神的愛の触れ合いを描いた一家の物語。
戦後の家族、特に父と娘もしくは嫁を描いた傑作といえば小津作品を連想させるが、設定は似ているが中身は両極にあるといっていい。成瀬は女性目線で物語を追って行く。
どちらかというと庶民感覚で人間の哀歓を描くのが得意で原作のような父親像とは無縁の監督だが、キャスティングの妙で見事に乗り越えている。
信吾に扮した山村聰は20歳も年上の老け役で、会社の重役らしい男の品格を備えていながら息子・修一の愛人問題や娘・房子の家庭騒動に苛まれる一家の主を演じている。
修一は、菊子に冷淡だけでなく愛人の妊娠を知るとDVに及ぶという卑劣な男で、その焦燥の要因は本作ではハッキリしないが戦争体験のようだ。戦前の2枚目・上原謙に前作同様ダラシナイ男を演じさせているのは成瀬らしい。
対してここに登場する女性たちは自分の意見をはっきり言う。唯一例外だった菊子も決意を新たにする。
戦後変革の激しい家族・夫婦の在り方を女性の自立というテーマで捉えた本作は、名画「第三の男」に似たラストシーンが印象的な大人向け作品だ。
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