・健在ぶりを示したW・アレンの期待以上に頑張った、C・ブランシェット。
ウディ・アレンといえばお気入りの女優と大好きなNYを舞台に繰り広げるロマンティック・コメディが思い浮かぶが、近作は「ミッドナイト・イン・パリ」「ローマでアモーレ」などヨーロッパに舞台を移して趣きの違うトーンに新境地を拓いた感もあった。
NYの投資実業家の妻・ジャスミン。ハンサムな夫が詐欺師で全てを失いながら虚栄心の塊を拭えず、痛々しい現在から再びセレブになることを諦めない女性を緻密に冷徹に描いて行く。
本作はヒロインにケイト・ブランシェットを起用し、77歳にして益々人間描写とくに女性を描くことに長けたW・アレンの本領発揮作品となった。近作は敬遠していた筆者も本作は映画館で鑑賞、お金を払って観た価値はあった。
ストーリーのヒントとなったのは投資家バーナード・L・マドフの実話からか?ヒロインが着飾って労働者階級の妹を頼って訪ねるが、プライドが邪魔をして巧く行かない。情緒不安定で身も心も破綻して行くさまは、エリア・カザンの「欲望という名の電車」のヒロインに設定がそっくり。
ブランドで身を固めたヒロイン・ジャスミンの本名はジャネット。大学中退で結婚した相手が成りあがりの大金持ちだったため、セレブの象徴であるブランドものは女の武器。妹の前でも嘘で塗り固める姿が痛々しい。どこかビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」のヒロインにも似た虚栄心は哀しいサガか?
本作では、50年代とは違って男を愛するヒロインではないところが今風か?独身エリート外交官に出会って再び再浮上のチャンスがあったにも拘わらず、社交界の華になることが目的では・・・。
トキドキ出てくる独り言がジャスミンの本音で他人は気味悪がって関心を持って聴こううとしない。姉の善き理解者である妹・ジンジャーだって自分の生活を優先するのが現実なのだ。
男は自分の欲望を女に求め、女は豊かな暮らしと優しさを男に求める様子を出演者全員にさり気なく織り込んだアレンの人物描写は辛辣で止まることを知らない。
オスカー(主演女優賞)を獲得したC・ブランシェットは、ビビアン・リーやグロリア・スワンソンという大女優に負けることのない現代の女の哀しさを演じたというお墨付きをもらったのかもしれない。
強敵が多く受賞を逃したが妹・ジンジャーを演じたサリー・ホーキンスはマイク・リー作品の常連でお馴染みだが、今回の好演は本作最大の功労者とも言える。
劇中に流れる「ブルー・ムーン」がまるでヒロインの心情を象徴しているようだ。