晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「とらわれて夏」(13・米) 75点

2014-05-11 20:18:51 | (米国) 2010~15

 ・ オーソドックスなJ・ライトマン演出。

                    

 87年アメリカ東部・ニューハンプシャー州の田舎町で起きた、シングルマザーと13歳の少年が脱獄犯とともに過ごした5日間の物語。9月1週のこの5日間は3人にとって一生忘れることのないできごととなってゆく。

 「マディソン郡の橋」(95)と「パーフェクト・ワールド」(93)をミックスしたようなストーリー。「ライ麦畑でつかまえて」のJ・D・サリンジャーに影響を受けたジョイス・メイナード原作「レイバー・ディ(労働の日)」をハリウッドの気鋭・ジェイソン・ライトマンが脚本化・演出している。

 ライトマンは本来のシニカルな笑いを抑えて、原作の持つ「絶対にそうならないだろうが、そう生きられたらいいな」と思えるストーリーを壊さずにオーソドックスな演出ぶり。自身の少年時代の体験をもとに、母親への心情や思春期での異性への想いを込めて観客心理を巧みに捉える筋書きに徹している。

 母親アデルを演じたのはケイト・ウィンスレット。過去の辛い想いを胸に愛を封印してしまった女性が、愛を取り戻して行く複雑な心情を見事に体現して魅せる。ベッドシーンなどで興ざめすることが多い昨今の作品とは違って、円熟した女性の魅力全開だ。

 息子ヘンリーに扮したのは、「チェンジリング」(08)で取り違えられた子供だったガトリン・グリフィス。大人の階段を上ろうとしている少年役に相応しく立派に成長している。スポーツよりダンスが好きなナイーブな雰囲気と、母親を支えるのは自分しかいないという自負心が顔に溢れていて、母性本能をくすぐる。

 脱獄犯フランクはジョシュ・ブローリンが演じている。少し地味な俳優だが、チリ・ビーンズやピーチ・パイを手際よく作り、家や車の修理をこなし、子供と野球や初デートのときに困らないようにタイヤ交換の仕方まで教える。今回のはからずも殺人罪で服役したが<心優しい善き夫であり父親であった筈の男>の哀しさを秘めた役柄にはぴったりで、彼の代表作になることだろう。

 フラッシュバックで、なぜ彼が殺人を犯したのかが描かれるが、脱獄した理由ははっきりしない。理屈抜きで2人の出逢いを見て、その結末をハラハラ・ドキドキして観るためのドラマなのだろう。フランクの人物設定はヒロイン・アデルと息子ヘンリーから観た理想の夫で理想の父親でなけばならないので、多少の非現実はこの際目くじらを立ててはいけない。

 終盤でアデルが離婚した理由と心の病を持った経緯が終盤で明かされる。女性観客の共感を呼ぶところで、捕まらないで欲しいという気持ちでいっぱいになる。映画館は女性の比率が高く、あちこちですすり泣きが聴こえそうなドラマだった。

 ナレーションを務めたのはトビー・マグワイヤで、大人になったヘンリーで登場する。彼目当てで観たら物足りないほどのワンシーンだが、ピーチパイが絆となっているのに納得。

 若いライトマン監督が、これほど中高年向けの落ち着いたテイストの作品を手掛けるとは思わなかった。斬新な演出期待を裏切った感もあるが、熟年世代の筆者には懐かしくもあり、予想を裏切らない好感が持てる結末でもあった。