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晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「スウィング・ガールズ」(04・日) 65点

2013-05-08 15:19:57 | 日本映画 2000~09(平成12~21)
・二番煎じの感も、終わり良ければ全て良し!

  「ウォーターボーイズ」(01)で男子高校生とシンクロナイズドスウィミングというミスマッチ風の取り合わせで話題を呼んだ矢口史靖が、二匹目のドジョウを狙って女高生とビッグバンドのテーマで映画化。

 東北の田舎町で落ちコボレの女子高生が、ふとしたキッカケでビッグ・ジャズバンドの演奏にのめり込んで行く姿をコミカルに描いている。

 兵庫県立高砂高校ジャズバンド部がモデルらしいが、各地に似たようなバンドがあるようだ。出演した女子高生たちは、地方の女子高生のイメージでオーディション1000人の中から選ばれたという。「ウォーターボーイズ」でもそうだが、矢口監督は新人発掘には定評がある。もっとも主演の上野樹里は犬童一心監督「ジョゼと虎と魚たち」(03)の香苗役で出演しているので純粋なオーディションではなさそう。のちの大活躍ぶりはご存知の通り。準主役の貫地谷しほりも朝ドラ「ちりとてちん」で注目を浴び、演技派・若手女優として頑張っている。

 2番煎じを承知で彼女たちが演奏するビッグバンドの名曲が流れるのは、心が弾んでくる。吹き替えなしで4カ月の特訓で披露されたと聴くと<よく頑張った!>と一種の感動を覚える。少しでも楽器やバンド経験があれば分かるが、動機が何であれ演奏にのめり込んで行く気持ちは何物にも代えがたい。ここでは補習授業をサボる口実がキッカケであるが、一途に打ち込めることができるのは高校生の特権でもあり、その描写はベタながら青春ドラマの常道だ。

 矢口作品には欠かせないギャグ漫画のようなコミカルなシーンが連発されるが、突っ込むより許してしまう寛容さを持ちながら観た。信号機から流れる音楽で本仮屋ユイカがスウィングのリズムに気づく場面は、ビートルズのアビーロードのパロディを思わせ、ほのぼのとさせてくれる。

 映画館の大画面から流れるほうがその気分を味わえるが「シング・シング・シング」「ムーンライト・セレナーデ」「A列車で行こう」などの名曲がセーラー服を着た彼女達によって演奏されるだけで感動もの。エンディングの「L-O-V-E」が流れるまでの演奏は<終わり良ければ全て良し>である。
 

「助太刀屋助六」(02・日) 70点

2013-05-04 15:40:50 | 日本映画 2000~09(平成12~21)
・娯楽活劇の鬼才・岡本喜八の遺作は痛快時代劇

  何から何まで型破りな娯楽活劇をライフワークとした岡本喜八が6年振りに復活した。原作(「助太刀屋」)の生田大作は監督の別名である。体調不良で往年の切れ味はないが、77歳で自作を映画化したエネルギーは素晴らしく、充分楽しめた88分の痛快時代劇だ。

 天涯孤独で、仇打ちの手助けをする助太刀屋という奇妙な商売をしている助六(真田広之)が、7年振り故郷上州へ戻ってくる。幼なじみ・太郎(村田雄浩)と再会し、折りしも仇打ちがあるのを知って助太刀を買って出るが2人の武士からあっさり断られる。仇は片倉梅太郎(仲代達矢)で八州廻りの元役人で同僚2人を殺害したため。すでに助太刀浪人を2人用意した武士たちの優位ははっきりしていた。八州取締出役・榊原織部(岸部一徳)の検分も儀式に過ぎない周到さである。

 岡本は秘かに黒澤にライバル意識を抱いて本作に挑んだのでは?場所が上州の宿場町・棺桶屋と八州廻りの登場人物など共通項も多く、黒澤明の「用心棒」と似た設定だが雰囲気がまるで違う。三船敏郎が得意の殺陣で魅せるのに対し、真田は錆びた刀を遣わず飛んだり跳ねたりのアクションで画面狭しと暴れまわる。殺陣にもリアルな映像に拘った黒澤に対して、決して血を見せない岡本は好対照だ。

 久しぶりの岡本作品に集まった出演者が豪華だ。まずは時代劇には欠かせない仲代達矢。出番は少ないが、肩の力を抜いた佇まいがサマになっていて存在感が抜群。岡本作品には「大菩薩峠」(66)以来の仲だ。同じくベテランの小林桂樹が棺桶屋で出演している。代表作「江分利満氏の優雅な生活」(63)を始め数々の出演作があり、岡本作品の常連でもある。。さらに岸部一徳は前作「EAST MEETS WEST」で真田と競演していて、この手の作品には欠かせない悪役で彼独特の味を出している。本田博太郎の助太刀浪人も常連のひとりだ。
 幼馴染みの番太・太郎に扮していたのは実直そのものの村田雄浩、その妹・お仙には鈴木京香で、若い娘役に張り切っている。そのオボコ娘・お仙を八州取締出役に水揚げを世話しようと企むやり手婆・オトメには岸田今日子でナレーションも務めている。ほかにもカメオ的に岡本作品を支えていたのは竹中直人、嶋田久作、佐藤允、天本英世、伊佐山ひろ子などがチョイ役で登場。まさにオールキャストで岡本の復活作に協力。スタッフも撮影に加藤雄大、美術に西岡善信、音楽にジャズの山下洋輔と揃って、まるで同窓会のよう。それほど岡本の情熱に賛同した映画人が多かったかが分かる。

 突っ込みどころ満載のウェスタン風時代劇だが、晩年は娯楽作に注ぎ続けた岡本喜八という鬼才を偲ぶには最適な作品である。


 

「トイレット」(08・日) 70点

2013-04-23 19:04:52 | 日本映画 2000~09(平成12~21)
・独特の空気感から、家族4人の人間像が浮かんでくる。

 
 「バーバー吉野」(03)、「かもめ食堂」(06)、「めがね」(07)とコンスタントに発表してきた萩上直子念願の北米ロケ・英語版の作品。

他人と関わりたくないオタクの次男レイがアパートの火事に合い、母が死んで兄妹の住む実家へ戻ってくる。そこには母が死ぬ前に呼び寄せた日本人の祖母が同居していた。長男モーリーはパニック障害のため引きこもり状態のピアニスト。妹リサは勝気で生意気な大学生。祖母は「ばーちやん」と呼ばれるが、英語が喋れないせいか無口だ。問題を抱えた4人の生活がエピソードを重ねながら徐々に家族として絆を深めて行く。

萩上監督は実に淡々としたストーリー展開で独特の空気感がある。構図を決めながら余計な説明なしで物語を進めて行く手法は、肌合いが合うか合わないかで評価が分かれるところ。ただ今回は「めがね」では不発だったレトリックの面白さがあって、そこそこ楽しめた。

<トイレが異常に長く、出てくると必ず深いため息をつく>ばーちゃん。なにも喋らず、出前の寿司には箸をつけないが、餃子づくりはとても上手い。古いミシンも器用に使いこなせ、孫たちの頼みは何でも訊いて財布からお金を出してくれる。<センセー>と呼ばれる猫とともに存在感抜群なのだ。

題名からエンディングのオチまでクスリとさせるエピソード満載には洒落たセンスが感じられるが、それ以上のものはない。お馴染みのフード・スタイリスト・飯島奈美、猫、もたいまさこで萩上ワールドに浸り、<オシャレな女性向けグラビア雑誌>を観たような気分。

映画「沈まぬ太陽」(09・日) 50点

2013-04-10 11:05:47 | 日本映画 2000~09(平成12~21)
・映画化のモラルを問う作品。


「不毛地帯」「白い巨塔」など社会派作家・山崎豊子の長編をもとに<映像化されなかった最後の傑作>と言われた本作を、角川が苦難を乗り越え映画化に漕ぎ付け日本アカデミー賞を獲得した。
ナショナル・フラッグと言われる航空会社の軌跡をたどりながら人命に関わる航空機会社の在り方を問う問題作だけに、週刊誌に連載された時点で出版社(新潮社)とモデルとなった航空会社(日本航空)では確執があった。そもそもノンフィクションかフィクションかの境界線が微妙で<限りなくノンフィクションに近いフィクション>という原作に偏りがあったのでは?
その最大の理由は主人公の設定があまりにもヒーロー扱いで描かれていること。渡辺謙扮する恩地元は、正義漢溢れ純粋な企業戦士で若いころは労組の委員長だった。社員や安全フライトのため経営陣との闘争で勝利したが、経営側はあまりにも過激すぎて経営悪化を招くと第2組合を作るキッカケとなり、本人はカラチ・テヘラン・ナイロビと流刑とも言われる支店派遣が続く。10年を経て東京本社の閉職に復帰する折りしも御巣鷹山でジャンボ機墜落事故が発生。救援隊・遺族係へ派遣される。遺族への真摯な対応を評価され信頼を得て大坂の遺族係として赴任。政府は再建を期し人選に当たった結果、関西の紡績会社会長・国見正之を会長として迎えることとする。恩地は会長から会長室・部長として呼び戻され、特命事項を担当し会社の不正を糺すことに奮闘する。
まさにキャッチ・フレーズどおりの、<30年間、企業の不条理に翻弄されても絶対に諦めなかった男>の物語になっている。モデルになった実在人物は小倉貫太郎氏といい02年に亡くなっているが社内では有名人だった。東大法科出身で学生運動の闘士としての経験から、ある企業の労働運動に関わって退社。航空会社へ入社後は労組委員長として鳴らし、要求貫徹の戦術としてタブーと言われる総理フライト(池田首相の訪欧スケジュール)期間中スト決行を掲げたので一躍有名となった。その後アフリカ生活10年を経て東京本社へ戻るが、墜落事故の際遺族係として奮闘努力したのは別の人物だった。御巣鷹山にいち早く駆け付け4年間尽力したのは岡崎彬氏で、遺族相談室・世話役は岩田正次氏である。不正取引の調査をした事実はないようだ。ナイロビでの王侯貴族のような生活に未練があって転任願いしたとも聞く。
これではドラマとして成り立たないので、企業戦士の<イイトコ取り>をして恩地というヒーローが登場したのだ。
三浦友一が演じた友人でライバルの行天は架空の人物だが、複数の実在モデルがいる。西村雅彦が扮した八馬取締役、柴俊夫演じる労務担当役員で後の社長・堂本は実在する。彼らの<謂れのない悪行は払拭されないまま、事実として残ってしまう>。渡辺いっけい扮する運輸省課長は、原作者に直談判しようとしたが居留守を使われたとのこと。
もうひとり石坂浩二が扮した国見会長は鐘紡の伊藤会長のことで、あまりにもキレイごと過ぎると言わざるを得ない。長年に亘る労使関係の歪み、政治家・官僚との癒着、不採算路線の圧しつけ排除ができないこと、長期の為替予約で厖大な差損を抱えたこと、子会社のホテル投資失敗など経営陣のミスによって、この後経営悪化した事実は免れようもない。この点に深く切り込んだドラマなら大拍手を送れたに違いない。
大熱演した渡辺謙には惜しみない拍手を送りたいが、事実ではないヒーロー恩地元を美化した本作はかつてのNHK人気番組「プロジェクトX」の拡大スペシャル版を連想してしまった。
若松節朗監督を始め20回以上シナリオを書き直した西岡琢也、航空会社から協力を得られなかったスタッフなどの苦労が目に浮かぶが、フィルムは後世にも残っていく。エンディングでこの物語はフィクションであるというクレジットでは済まされない映画化のモラルというものがある。主人公が会社を止めない理由に<人間としての矜持を示したかった>と言うように。

『トウキョウソナタ』 75点

2012-06-14 11:44:46 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

トウキョウソナタ

2008年/日本

家族の危うさと平穏を描写した黒澤清

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

日本滞在経験のあるオーストラリア監督・脚本家マックス・マニックスの脚本をもとに黒沢清・田中幸子の師弟コンビが筆を入れた黒沢清の家族ドラマ。
健康器具販売会社の総務課長・佐々木竜平の一家4人の人間ドラマで、ちょっとした出来事やキッカケで家族は危うくなったり平穏さを取り戻したりする。そんな何処にでもある平凡な家庭をベースに、起きるハプニングは起きて欲しくないことばかり。
竜平は突然リストラされ家族に内緒でハローワーク通い。長男の大学生・貴は学業もアルバイトも身に入らず、米軍入隊を志願して竜平を慌てさせる。次男の小学生・健二は義侠心が厚く友人の家出に付き合った末バスの無賃乗車で警察に留置されたりするが、ピアノ教室の先生に憧れ内緒で教室へ通う行動派。妻の恵は良妻賢母の専業主婦だが、自宅に強盗が入って思わぬトラブルに巻き込まれる。
実際はこんなことが起きるはずはないものの、断片的には思わず同調するシークエンスがあって、妙なリアル感も漂わせる。とくに大都会で懸命に暮らす人々の閉塞感が画面に溢れていた。
黒沢清は日本を代表する監督のひとりだが、筆者は苦手でこの作品が初見。カンヌ・ある視点部門の審査員賞を受賞していて演出家としての才能は認めるが筆者には肌合いが合わなかった。俳優とくに長男・小柳友、次男・井之脇海の演技を上手く引きだした手腕は流石だが、香川照之、小泉今日子、役所広司などの演技はあくまで当事者任せの感あり。普通なら香川と役所の役柄は入れ替えた方がリアルだと思ってしまうのを敢えて逆にしたのだろうか?
滑り出しはこれから一家はどうなるのだろうと思いながら竜平と健二の行く末に興味を持たせてくれたが、役所広司が出てくるあたりから雲行きが怪しくなった。一歩間違えれば始末に負えない作品になりかねない。そのあたりを心得ての演出だと思うが...。


『恋するトマト/クマインカナバー』 80点

2012-06-12 15:40:50 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

恋するトマト/クマインカナバー

2005年/日本

ひとり4役・大地の熱意が伝わる心温まるラブ・ストーリー

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

幅広いキャラクターを演じる名脇役・大地康雄が企画・製作・脚本・主演のひとり4役を担って7年の空白を乗り越え足掛け13年間で完成した異色ラブ・ストーリー。
バブル期を経験したとはいえ、つい最近まで豊かな食生活を満喫していて、不安など何もなかった日本の食糧事情。その基本を支えていた農業は疲弊し、後継者不足は深刻な問題だ。霞ヶ浦の近くで農業を営む野田正男は45歳だが未だに独身。集団見合いで田舎暮らしに憧れて参加した景子とは農業に対する姿勢がまるっきり違って破談に。フィリピン・パブで見染めたリバティとの国際結婚も両親を説得してのマニラ行きだったが詐欺に遭って途方に暮れる。
野田正男とは大地の本名でまるで本人が乗り移ったようなキャラクター。愚直で不器用だがお人好し。仕事には情熱を持って挑み粘り強く決して諦めない。こんな人物を演じさせたら、竹中直人と双璧だ。
フィリピンでは怪しいタレント派遣業の中田に救われ裏稼業に足を染めるが、豊饒で温かい心の持ち主クリスティナと出会い、再び農業に目覚める。
ベタな展開は出来過ぎの感はあるが、観客を裏切らない大切なものとヒトが心を熱く感動へと導いてくれる。
景子を演じた富田靖子、リバティのルビー・モレノも適役だがフィリピンのトップ女優というアリス・ディクソンが寅さんのマドンナのような役割を果たして胸を熱くさせる。村田雄浩、藤岡弘、織本順吉、あき竹城、清水紘治、石井光三など脇を固めたのは友情出演では?彼らにも拍手を送りたい。
副題のクマインカバナーはタガログ語で「ご飯食べましたか?」という意味でホームレスになった正男に浜辺で見知らぬ娘に声を掛けられたときの言葉。結婚詐欺をしたフィリピーナも浜辺で声を掛けた優しい娘もいる。当たり前だが、「一概に国や人を判断してはいけない。」


『南極料理人』 75点

2011-11-01 14:11:28 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

南極料理人

2009年/日本

当たり前の生活の幸せ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

西村淳のエッセー「面白南極料理人」を映画化。沖田修一の監督デビュー作品でもある。
西村を演じた堺雅人をはじめ個性的な俳優を揃え、極限の世界で暮らした8人の男達1年半の物語。
昭和基地から1000km離れた氷雪以外何もないところで観察を続ける研究者をサポートするために海上保安庁から派遣された料理担当の西村。仕事とはいえ家族を残して1年半3食食事を作るという過酷な運命をどう受け止めてどうこなしたか?が独特のユーモアを交えエピソードを綴ってゆく。
映像で欠かせないのがその臨場感。ロケ地は北海道だったが零下50度を超える寒さや基地の建屋は本物のお墨付きだったようだ。
麻雀・ビデオ・卓球・氷上野球などの娯楽や誕生会などの記念日で癒す日々だが、最高の楽しみは何と言っても3度の食事。人間辛いトキには食の好みに偏りがあるらしく、タイチョー(きたろう)はラーメン命だし盆さん(黒田大輔)はバターを盗み舐めをする。日本のおじさんはイクラのおにぎり、海老フライ、ラーメンがごちそうで、フレンチのフルコースは似合わない。フード・スタイリストの飯島奈美が腕をふるった料理の数々は「かもめ食堂」「めがね」に負けずおいしそう。だが男たちはTVの料理番組のように美味いを連発しないで黙々と食べるのだ。
男たちには日本での生活があって妻子や恋人を残してここにきている。電話やFAXでしか通信手段がないちょっと前のコミュニケーションが妙に切ない。そして当たり前の家族との普通の暮らしがどんなに大切かを教えてくれる。
堺雅人の飄々としたなかに男の悲哀が見え隠れする今の父親像がとてもリアルだ。奥さんとケンカ中の生瀬勝久、南極の居心地が良くてバーをつくってカクテルに腕を奮うドクター豊原功輔、恋人にフラレ凍死しようとする高良健吾など男たちのエピソードが続くがむさ苦しくないのは極寒のあまり無菌状態の環境のせいか?
髭だけが時間の経過を教えてくれる。髭を剃って家に寝転びTVを観ているお父さんがどんなに偉大かを妻も娘も知らない。日本の男たちへの応援歌である。


『キサラギ』 80点

2011-05-26 13:41:01 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

キサラギ

2007年/日本

真面目にやるほど面白い密室劇

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

「ALWAYS 三丁目の夕日」を脚色した古沢良太のオリジナルを自ら脚色した密室劇コメディを佐藤佑一監督で映画化。
アイデアとテンポの良い演出、5人の俳優の頑張りで上質なコメディに仕上がった。
D級アイドル・如月ミキの焼身自殺の一周忌に集まった5人のオタク。アイドルサイトのオフ会場はビルの屋上に建てられた一室。
5人という設定が丁度良くこれ以上少ないと話が膨らまないし、多いと人格設定に行き詰まりそう。「七人の侍」「十二人の怒れる男たち」は傑作だったのは人格を明確に描写できていたから。
管理人の家元(小栗旬)オフ会の企画者オダ・ユージ(ユースケ・サンタマリア)元ロッカーのスネーク(小出恵介)福島から来た安男(塚地武雅)そしてイチゴ娘(香川照之)の5人はお宝グッズで故人を偲ぶ。イイトシをした男たちがアイドルに夢中になる話なんてゾッとしないが勢ぞろいして実はどんな関わりがあったかがひとつづつ種明かしされる度に面白みが増してくる。
さすがに映像では辛い部分を何とか凌ぐうち、なるほどと思ってしまうのは脚本の面白さか?
「もう疲れた。いろいろありがとう。じゃあね。」というメッセージがキイ・ワード。
歌も芝居も巧くないアイドル・タレントがヘア・ヌード写真集で挽回を期すなどアイドルに幻想を抱く純粋な?ファンには最後までその姿を見せないほうがイメージが膨らんだかも。
インド映画のようなダンス・シーンなど5人が真面目にやるほど可笑しさがこみ上げてくる。


『めがね』 (07・日) 70点

2011-01-14 11:20:43 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

「バーバー吉野」「かもめ食堂」の荻上直子監督が南の島に舞台を移して癒し系作品。企画・霞澤花子の名があるが、日本テレビで放送され、低視聴率ながら評判になったドラマが原形であるため。小林聡美、市川実日子が映画でも出演している。
南の島へやってきたタエコ(小林聡美)は民宿ハマダの主人ユージ(三石研)に迎えられるが、不思議な先客サクラ(もたいまさこ)や高校教師ハルナ(市川実日子)の日常に馴染めない。
「かもめ食堂」と同じ異空間で出会った人との交流は言葉より、美味しい食事と共有する空気感であることを南の島で訴えてくる。この独特の空気感に浸ることができないと作品は眠くなるだけの展開のまま116分が終わってしまう。
毎日に忙殺されふと人生に疑問を感じたひとが旅に出て、ゆったり・まったり過ごしたいと思っているにはぴったりの作品だろう。堤防で釣り糸を垂れるユージはかつての自分が憧れた世界だったかもしれない。毎日が日曜日の筆者には、かつてこんな気持ちになった懐かしい気分が蘇る。
たそがれるためにやってきたのでは?といわれ、かき氷が嫌いで、メルシー体操なる奇妙な毎朝の浜辺の体操も拒否していたタエコ。大学の文学部教授らしい彼女の頑ななココロが溶けてゆくさまが心地良い。マリン・パレスの女主人(薬師丸ひろ子)が経営するもうひとつの民宿では決して癒されることはない。
不思議な存在感の、もたいまさこが無くしてはこの作品はありえないだろう。


『しあわせのかおり』 80点

2010-06-24 10:26:05 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

しあわせのかおり

2008年/日本

ささやかな暮らしの幸せを共感

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

TVドラマで力量をみせながら映画をコツコツと作っていた三原光尋。金沢市大野町を舞台に年老いた料理人とシングルマザーの交流を描いた心温まる人間ドラマ。
小上海飯店をひとりで切り盛りしている王さん(藤竜也)は腕は確かだが無口で無愛想な料理人。「村の写真集」という作品で上海映画祭グランプリを獲ったときのコンビ・藤竜也が、鮮やかな手さばきで作る中華定食がとても食欲を誘って美味しそう。監督自身が中華料理好きで、カメラの芹澤明子が丁寧に撮っているのがその要因。
デパートで出店を勧誘するため通っていた山下貴子(中谷美紀)が、仕事を辞めて弟子入りを志願する。
映画を舞台にした街おこしは尾道・山形など成功例は多いが、これも舞台設定には最適な地方都市に隣接した静かな街並みが、地味だがささやかな暮らしの大切さを共感させてくれる。2人にはそれぞれ病という難関を抱えながら周りの温かい励ましで血縁を超えた絆が生じてくる。
おいしそうな料理、良い人たち、静かな環境で前半は快調な展開だ。ただ中盤、故郷の上海・紹興へ2人が旅するあたりから前半の流れを殺いでしまった。タイアップの弊害からか意味のないPRシーンが続き、この手の作品の難しさを体現したのがもったいない。
中谷美紀は役柄にぴったりで健気な感じが出ていて貴重な女優だ。ただやつれて見えたのは役柄のためだろうか?料理人にはとてもなれそうもない細腕で、後半料理をこなす姿は女優根性を見たが痛々しかった。
王さんの恩人、加賀友禅工房の社長・八千草薫が出てきたあたりからラスト・シーンが想像できたが良くも悪くも期待を裏切らない結末となった。
本当に美味しい料理は「おふくろの味」というが、王さんの<卵とトマトの炒めもの>をいちど食べてみたくなる。