竜馬の妻とその夫と愛人
2002年/日本
英雄に関わった凡人たちの葛藤
![]()
shinakamさん
男性
総合
80点
ストーリー
80点
キャスト
85点
演出
80点
ビジュアル
80点
音楽
75点
三谷幸喜の舞台脚本を市川準が惚れ込んで映画化した。味の違う2人のコラボレーションが坂本竜馬の妻を巡る3人の男のラブ・コメディをどう融合させるのかが最大の興味。
大河ドラマで再び脚光を浴びている幕末の志士・坂本竜馬。その妻おりょうも竜馬がぞっこんだったのは有名だが、横須賀に墓があるのはあまり知られていない。その横須賀でおりょうの面倒をみたのは、西村松兵衛というのは事実のようだ。
三谷脚本は松兵衛(木梨憲武)を主人公に、おりょう(鈴木京香)の妹と結婚した海軍中佐・菅野覚兵衛(中井貴一)、竜馬似のテキヤ・虎蔵(江口洋介)という竜馬の呪縛から離れられない3人が可笑しくも哀しい男心を繰り広げる。
テンポのある台詞の応酬でドラマを盛り上げる三谷脚本は映画でも活かされていて、松兵衛と覚兵衛の襖の影でのやりとりが舞台劇そのもので木梨と中井のコンビは絶妙の漫才のよう。アドリブを大切に使う市川演出とも波長が合っている。
ただ、引きで長回しの人物描写が特徴の市川映像とは馴染めず、浮いてしまった。寂れた長屋の日常風景もテンポを狂わせ、原作に気遣いし過ぎたのが要因か?思い切って市川作品を前面に出して欲しかった。
ハナシはとても面白く、4人の俳優も好演しているが、音楽もチグハグでトータル・バランスに欠けてしまった。
木梨の台詞は、21世紀の日本語で聴かせどころの自分で考えたというセリフも明治を忘れてしまって月9のドラマのよう。おりょうの鈴木京香は如何にも男好きな雰囲気で実際こんなヒトだったのかもしれない。

嫌われ松子の一生
2006年/日本
ファンタジーに成功した邦画の貴重な作品
総合
80点
ストーリー
80点
キャスト
85点
演出
85点
ビジュアル
85点
音楽
80点
山田宗樹の原作を「下妻物語」の気鋭・中島哲也監督が、テイストの違うファンタジーな映画に仕上げた。昭和の時代を駆け抜け、平成になって取り残され孤独のまま死んでいったひとりの女・川尻松子の物語。
CM出身の中島監督はCG・アニメを駆使し松子の波乱万丈の人生を通して、昭和の高度成長期を画面いっぱいに原色で繰り広げ、POPな世界を創出している。好き嫌いがはっきり出る監督でどちらかというと苦手なほうだが、この作品は好きである。特に、どうしても暗く陰惨になりがちなソープ・ランドや刑務所暮らしのシーンをミュージカル仕立てでテンポ良く見せる技術は、和製ミュージカルの成功例で鮮やかのひとこと。
主演の中谷美紀は惚れこんだ役だけあって一皮むけた一世一代の大熱演で、日本アカデミー賞主演女優賞受賞も納得の役者振り。これも中島監督のサディスチックな指導が生きたお陰であろう。
松子に係わる男たちも個性派揃い。教え子でヤクザの龍洋一(伊勢谷友介)太宰治に憧れる作家の卵の八女川徹也(宮藤官九郎)雄琴で同棲するヒモ小野寺(武田真治)などどれをとっても幸せになりそうな男はいない。幸せを夢見る少女だった松子は孤独になることを恐れるあまり惨めな暮らしを繰り返す。
奇想天外で誇張されているが、平成の現代が抱える社会問題、家族の確執・失業・DVが浮き彫りにされていて決して絵空事ではない。それはミュージシャン志望の頼りない甥の笙(瑛太)と海外青年協力隊としてウズベキスタンへ旅立つ明日香(柴咲コウ)の若い2人の関係が象徴的。
不器用で惨めな53年の人生を精一杯生きた松子に愛着を感じさせたのは、「人間の価値とは何をしてもらうかではなく、何をしたか」で決まるという言葉のせいか?