他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ
ブレイディみかこ(著)2021年6月発行
本の案内に、
— 私の世界とは違う世界がある。世界は広い。きっとこことは違う世界がある。
いまとは違うオルタナティヴな世界はあるのだと信じられるからこそ、
どれだけ状況が過酷であろうと、そこから脱することは可能だと思えるのだ。(中略)
想像力が「違う世界」の存在を信じることを可能にし、それが人の「根もとに
ある楽天性」になるとすれば、エンパシーはやはり個人が自分にために身につけて
おくべき能力であり、生き延びるためのスキルだ。
— 本文より
とある。
世界が分断され、社会であらゆる格差が拡大し、人々の許容力が失われていき、
日本もますます生きにくい世の中になってきている。
そんな今だからこそ、じっくりこんな内容の本を読み参考に考えてみる必要がある
のではないか、手遅れにならぬ前に・・・と思った。
著者の本を読むたびに、つくづく「日本と違い、やはり英国は大人だなあ」と思わされる。
19世紀まで繁栄を謳歌し世界経済の先頭を走った英国が、20世紀中盤から経済が零落、
様々な苦難を経て(世界をリードする国力は失うも)その歴史、失敗を認め反省し、
正しく分析し、経験を踏まえ理性的によりよく解決していこうと試行錯誤しつつ
実行している様子が、著者の英国での生活体験の端々に伺い知ることできる。
(必ずしも、その試行錯誤の結果が成功しているとは言えないことが多いとしても)
本書は、今まで読んだ著者の本とはチョッと異なり、スイスイ読める訳ではなく
論文の引用なども多用しつつ“シンパシー”と“エンパシー”の違いについてや、
『エンパシー』が「共感」と訳されている意だけではない、という論の紹介と共に
著者の考えも詳しく述べられている。少し理解するのが難しい箇所もあったが、
なるほど、、、と気付かされるところもあり勉強になる。
著者が語るには、欧米では『エンパシー』をめぐる様々な議論があり、危険性や毒性を
持ち得るという説もあり、「エンパシー」も物事が全てそうであるように両義的、多面的
なものであり、簡単に語れるものではなく、だからこそ、著者なりに深く掘り下げ自分なり
に思考した文章を書こうとした、とのこと。
2019年の本屋大賞『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の内容を、より深く
掘り下げ思考した副読本的な一冊。
わがまま母