遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

猫を抱いて象と泳ぐ

2009年06月22日 15時25分09秒 | 読書
        猫を抱いて象と泳ぐ      小川洋子(著)2009年1月発行

  心が洗われるような、そして、心が痛む小説でした。
  『博士の愛した数式』とも通じるものを感じます。

  まず題名で「猫」はともかく、「象」と泳ぐ?・・・と疑問を抱きながら
  読んでいくと、「猫」は「ポーン」で「象」が「ビショップ」とわかって
  きます。いづれも、チェスに登場する駒なんですね。
  この小説は、チェス盤(8×8)の上で繰り広げられる世界=宇宙を旅する
  一人の少年のごくごく短くはかない一生とチェスの物語です。

  祖父母と弟と暮らす少年は、ある日、不思議なバスに住み、自らお菓子を作り
  食べ、チェスが上手な巨漢の「マスター」と知り合います。
  少年はマスターに「坊や」と呼ばれ、毎日一緒にお菓子を食べ、チェスの手ほどき
  を受け、メキメキと上達していきます。
  リトル・アリョーヒンとまで呼ばれるように腕を上げた少年ですが、
  突然、太りすぎたマスターが死んでしまうのです。
  それ以来、少年は大きくなることを拒み、身体の成長を止め、あることをきっかけに
  人形の中に身体を閉じ込めてチェスをするようになってしまいます。
  ホテルの地下にある「チェス倶楽部」で人形に入ったまま様々な人達と対戦する
  “リトル・アリョーヒン”は、身体は子どものままで、心はチェスの宇宙へ、
  未知の場所へと誘われていく。
  
  チェス倶楽部での対戦相手の一人「老婆令嬢」の印象的だった言葉がある。
  「チェス盤は偉大よ。ただの平たい木の板に縦横線を引いただけなのに、私たち
  がどんな乗り物を使ってもたどりつけない宇宙を隠しているの」
  「そう、だからチェスを指す人間は余分なことを考える必要などないんです。
  自分のスタイルを築く、自分の人生観を表現する、自分の能力を自慢する、自分
  を格好良く見せる。そんなことは全部無駄。何の役にも立ちません。自分より、 
  チェスの宇宙の方がずっと広大なのです。自分などというちっぽけなものに
  こだわっていては、本当のチェスは指せません。自分自身から解放されて、
  勝ちたいという気持さえ超越して、チェスの宇宙を自由に旅する・・・。
  そうできたら、どんなに素晴しいでしょう」
  
  この老婆令嬢も認めた少年“リトル・アリョーヒン”の美しい棋譜は、
  少女「ミイラ」(と白い鳩)の手によって記録されたのだが、「ミイラ」にも
  悲しいことが起こり、少年もチェス倶楽部を去ることになる。
  
  盤上の詩人といわれたチェスのチャンピオン“アリョーヒン”を尊敬した少年
  は、(いつもチェス盤の下に潜って推考したので)
  盤下の詩人“リトル・アリョーヒン”と言われたのに、公の場にでることなく、
  ひっそりとチェス人形の中で死んでしまう。
  チェスを通じて、素晴しく不思議な世界が描かれている小説です。
  
  大きくて、デパートの屋上から降ろせなくなった象のインディラ、
  太りすぎて、死んでもバスから降ろせなかったマスター、
  このトラウマが、少年の成長を阻んでしまうことになるなんて・・・。
  少年のチェスは高貴、精神は純粋無垢、、、
  なのに、彼の最期は、、、なんとも残酷過ぎる。
  と想うのは私だけでしょうか。

   わがまま母

  

  
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« みんなやると思うんだ・・・ | トップ | ハートを見つけた »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書」カテゴリの最新記事