遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

喜嶋先生の静かな世界

2010年12月22日 11時18分43秒 | 読書
            喜嶋先生の静かな世界      森博嗣(著)2010年10月発行

   
   読んでいると不思議に心穏やかになりなんとはなしに嬉しくなる本でした。
   思わず「幸せな時間をありがとう」と言いたくなるような・・・。
   世俗的な諸々から隔絶して“本当にしたいことをする”“真理を探究する”
   という生き方を徹底することにより、人が人として生きる素晴しい世界がある。
   憧れてしまう。
   本の内容の案内には、
   学問の深遠さ、研究の純粋さ、大学の意義を語る自伝的小説・・・とあり、
   表題にある通り「喜嶋先生」を主人公とした話です。
   理系の大学生「橋場」は、大学やその講義に失望していたが、4年生になり卒論を
   書くために講座配属(研究室のようなもの)となる。
   そこで森本教授の元を尋ね、助手の「喜嶋先生」と出会い指導を受けるうちに
   研究の面白さに目覚め、卒業後も大学に残り修士、博士へと進み、人間的にも成長
   していく。
   と書いてしまうと、至って変化に乏しいストーリーなのだが。
   
   講談社によると、この小説を読むと
   ●考えてもわからなかったことが突然わかるようになります。
   ●探してもみつからなかったものがみつかるかもしれません。
   ●他人と考えが違うことや他人の目が気にならなくなります。
   ●自分のペースや自分の時間を大切にできるようになります。
   ●落ち着いた静かな気持ちで毎日を送れるようになります。
   ●なにか夢中になれるものをみつけたくなります。
   ●スポーツが得意になるかもしれません。
   ●学生の方は進路が変わってしまう可能性があります。
   ●年齢性別関係なくとにかく今すぐなにか学びたくなります。
   
   だそうです。 確かに、、、読後一時そんな自分になっていたような、、、。
   他人と違うことは気にならないし、自分の時間を大切にし、落ち着いた日々を
   過ごすことの大切さがわかります。
   個人的には「スポーツが得意になるかも」に密かに期待をしてしまう。
   それは、本の中で喜嶋先生が語る研究者としての考え、ブレない姿勢から読み取る
   ことができて、とても感動、スポーツにも通じると思えた。
   例えば、喜嶋先生が橋場君と対話する1コマで「学問に王道なし」について語る場面を
   抜粋してみると━
   「えっと、、、王様が通るような特別な道はない、つまり、こつこつ学ぶしか方法は
    ない、という意味ですよね」
   「僕が使った王道は、それとは違う意味だ。まったく反対だね。学問に王道なしの
   王道は、ロイヤルロードの意味だ。そうじゃない。えっと、覇道と言うべきかな。
   僕は、王道という言葉が好きだから、悪い意味には絶対に使わない。
   いいか、覚えておくといい。学問には王道しか無い。」略
   学問には王道しかない。それは、考えれば考えるほど、人間の美しい生き方を言い
   表していると思う。美しいというのは、そういう姿勢を示す言葉だ。考えるだけで
   涙が出るほど、身震いするほど、ただただ美しい。悲しいのでもなく、楽しいのでもなく、
   純粋に美しいのだと感じる。そんな道が王道なのだ。
   いかにも、それは喜嶋先生の生き方を象徴しているように思えたし、それに、僕が
   その後、研究者になれたのも、たぶん、この一言の響きのおかげだった、と言っても
   過言ではない。
   どちらへ進むべきか迷った時には、いつも「どちらが王道か」と僕は考えた。それは
   おおむね、歩くのが難しい方、抵抗が強い方、厳しく辛い道の方だった。困難な方を
   選んでおけば、絶対に後悔することがない、ということを喜嶋先生は教えてくれたのだ。
   略 ━
   大学でも社会でも王道を外れる者の方が大多数の世の中にあって、王道を歩むことが
   出来る者にこそ希望があるという訳だ。
   喜嶋先生の研究者としてのあり方、論理性、自分の信じるままを貫く生き方に、
   弟子の「橋場」は憧れと共感を抱き、研究の道を進むことになる。
   
   他にも、喜嶋先生の個性的な言葉や行動が面白く、楽しめる。
   プロブラミングでの「下品なコードだなぁ」と喜嶋先生が眉を顰める時は、
   それは機能するけどスタイルがエレガントではない、といことを表現しているとか。
   「人の論文を沢山引用しなければならないようでは品がない」など。

   こんな時代に果たして生き残れるのか心配になるような純粋で真摯な一研究者の話
   に、感動です。素敵な小説でした。
   ミステリー作家と思っていた作家の意外な驚きに満ちた嬉しい一冊。

    わがまま母   
   
   
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