パシヨン 川越宗一(著)2023年7月発行
数年前の『熱源』、その後『海神の子』を読み、新しい時代小説という印象と、
著者の熱いパッションを感じたのですが、本書もすごい熱量で迫ってくるものがありました。
キリシタンとして海を越え苦労の末、宣教師になり、禁制、弾圧下にある日本に戻り、
あえて苦難の道を選び進む「彦七」と、江戸幕府存続のためにキリシタン殲滅作戦を
指揮することになる「政重」、この二人を主人公に、それぞれの立ち位置からの思考、
行動が描かれていて、とても興味深く面白かったです。
チョッと体調不良のため、詳しく書けないので、あらすじなど以下にコピー添付します。
わがまま
「パシヨン」 禁教の世 交錯する情熱と使命
朝日新聞書評から
パシヨン」 [著]川越宗一
国家や民族、異文化の摩擦を超克しようとする者たちの姿を、サハリンなどを舞台に描いた直木賞受賞作『熱源』。
その著者である川越宗一氏が今作でテーマにするのは、キリスト教の禁教の時代に
「最後の日本人司祭」となった小西マンショの生涯である。
小西マンショは幼名を彦七と言い、キリシタン大名・小西行長の孫として生まれた人物だ。
行長が関ケ原の戦いで西軍側についたことで、彼の境遇は大きく変わった。
行長は斬首され、母で対馬藩の宗家に嫁いだ行長の娘マリヤは離縁。
マリヤは彦七を連れて長崎に向かうが早逝(そうせい)し、孤児となった彦七はその地で
小西家の遺臣に育てられることになる。
生き生きと描かれる小西マンショの生涯を読みながら、
「現代」を照らし出す時代小説の想像力に圧倒された。
一人の潑溂(はつらつ)とした少年は行長の孫として生まれたという立場故に
小西家再興の重圧に葛藤を覚えながら、それでも信仰の道を選ぼうとする。
長崎を発ったとき、教えを受けた邦人初の司祭・木村セバスチアンが、悩める彦七に
こう語りかける場面があった。
「自由とは常に選び続けることであろう。選ぶには、そこに道があると知らねばならぬ。
選んでも、歩き方を知らねば歩けぬ」学ぶということは、自由を得るということ。
自らの道を自ら決める自由がままならない禁制の時代、彦七は受難の時を生きる情熱と使命を次第に抱いていく。
司祭の不在の中で信仰を続けようとする人々を支えるため、長い旅を続けるその生き方は、
あたかも一筋の光のような軌跡を残していくかに見えた。
また、本書のもう一人の主人公と言えるのが、幕府の禁教政策を推進する井上政重だ。
著者は政重側から見た風景を彦七の旅に重ね、立場の異なる二人の人生が交錯する過程を重厚に描き出している。
そうして彦七の旅を描く物語は、いずれ島原の乱の凄惨(せいさん)な戦いへと流れ込んでいく。
〈争いの原因は見失われ、過程だけが暴れ回り、結果だけが全てを薙(な)ぎ倒してゆく〉ような戦の渦中、
人と人とはなぜ争わねばならないのか、と懊悩(おうのう)する彦七の姿が胸に迫る。
幕府の統治を完遂しようとする政重と、受難の中で言葉を振り絞る彦七――
最後の瞬間に二人の間に兆す何かは、果たして希望だったのだろうか。
争いの連鎖をいかにして断ち切るかという普遍的な問いが、読後、いつまでも心に響いていた。