進進堂世界一周
追憶のカシュガル 島田荘司(著)2011年4月発行
世界を舞台にしたミステリーかと思いきや、想定外な感動の短編小説集でした。
とにかく本好きな友人知人には薦めたいな~。
ただミステリー好きが期待して読むと、チョッと違う、と思うかもしれない
が、グッと胸に迫るものが多い素晴しい一冊です。
表題の『追憶のカシュガル』を含む中編二作と短編二作から成っている。
京都の下宿で暮らす「サトル」は京大をめざす浪人生。
そんなサトルの日々の楽しみは、京大そばの喫茶店「進進堂」で知り合った
京大生の「御手洗さん」と話すこと。
御手洗さんは、世界一周の放浪の旅から帰ってきたばかりで、旅先での体験を
とても上手に話してくれる。
こうして始まる御手洗さんの異国での体験、不思議な世界をサトルと一緒に
喜んだり、つらくなったり、切なくなりながら私も共有することとなった。
・ 進進堂ブレンド 1974
忘れられない御手洗さんのチンザノの味に秘められた苦い恋の思い出
・ シェフィールドの奇跡
イギリス、シェフィールドで出会ったハンディキャップを持つ青年が
唯一自分にも出来る重量挙げでメダルをとるまでの苦難の過程と
彼を支えた父親の苦悩を描き、結末が清々しい。
・ 戻り橋と悲願花
太平洋戦争中、騙されて日本に渡り強制労働に従事することになる姉弟の
苦難の物語。
あの河原や寺で見かける赤い彼岸花の呼び名が、曼珠沙華は知っていたが
他に、死人花、地獄花、天蓋花、幽霊花、剃刀花、狐花、狐の松明、
狐のかんざし、捨て子花、三昧花、したまがり、、、
などなど沢山の名前を持っていたことに驚く。また花の由来、名称の理由
について面白い。朝鮮半島から渡来した高句麗人の里の話や
あの『奈良』が、韓国語のウリナラ(私達の国)から着ているという逸話
も。
彼岸花は、黄泉の国、あの世とこの世を行き来するためのパスポート、
という。
この一編で、充分大作が出来そうなほど、重さ深さに胸がつまった。
・ 追憶のカシュガル
春の桜、日本のソメイヨシノから話が展開する。
中国の西の果て、シルクロードの交差点カシュガルでであった老人の話。
戦争中、イギリスのスパイだったこと、自責の念にかられ数十年の歳月
自分を許すことなく生きた男の苦しみ悲しみが伝わる。
読んでいるあいだ、舞台となる異国の都市や村の様子が目に浮かぶようで、
また時空を越えた話に翻弄されつづけた。
どれも、深く濃く辛く、けれど決して暗いだけではなく、読後はさわやかな風
が吹いていったような感覚を憶えた。
わがまま母