やんごとなき読者 アラン・ベネット(著)2009年3月発行
王冠を戴いた女性の横顔、手には本・・・
そんな表紙に、題名が“やんごとなき”とくれば、、、
そう、女王のお話なんですねぇ。
エリザベス女王がもし読書に夢中になったら・・・という意外なアイデアを
基にした架空の物語です。
ありえない光景が次々と展開し、夢中になってしまう。
クスリと笑わされるユーモアやペーソスがちりばめられ、そこにプラス
イギリス流の多少毒のあるユーモアも。
ひとりの人間として(それも七十台後半の女王が)、読書によって、次第に
変わっていく過程が描かれている。
女王という孤独、周囲の無理解という環境でも、ひとり真剣に読書し、深く
考察し、内面を深めていく姿が素晴しく、共感した。
読書に夢中になり始めた女王が、
どうして読書に取り憑かれたのだろう?と考えるシーンにこんな文がある。
━略
読書の魅力とは、分け隔てをしない点にあるのではないかと女王は考えた。
文学にはどこか高尚なところがある。本は読者がだれであるかも、人がそれを
読むかどうかも気にしない。すべての読者は、彼女も含めて平等である。
文学とはひとつの共和国なのだと女王は思った。
略
本は何者にも服従しない。すべての読者は平等である。
略
それは無名の人間になれる経験、人々と共有できるもの、共同のものだ。
ふつうの人と異なる生活を送ってきた女王は、いま自分がそうしたものを渇望
していることを知った。本のページに入れば、彼女は誰からも気づかれない存在
になれる。
略 ━
こうして女王は、読書の魅力に嵌まっていき、公務にも弊害が、、、。
がしかし、読書を続けた女王は、知的に向上したのみならず、他人の気持を
理解できるようになった自分に気づき、最後には首相たちを前に、
自らが本を著す!と宣言するに至るほどになるのだ。
首相たちが、女王に一体何を書かれるのか、と戦々恐々とするなかでの会話も
とても面白い。
その一部を・・・
━ 略
「私はよく常識に富んでいるといわれますけれど、裏を返せば、それ以外の
ものはたいしてもっていないということで、そのせいでしょうか、歴代の政府の
要請に応じて、無分別な、往々にして恥ずべき決定に、消極的ながらも関わらず
を得なかったのです。時おり、自分が体制の香りづけのために、あるいは政策の
臭いを飛ばす為に送り込まれた香りつき蝋燭のような気がしたものです。・・・
近頃の君主制は政府支給の脱臭剤にすぎないのかしら。
略 ━
日々、義務を果たすのみだった女王が、こんなことを言うようになるんです。
と、著者は<『読書』の力の大きさ>を、女王様の姿を借りてアピールしたかった
のでしょうか。
それなら、大成功ですね。
英国の王室や女王は、「知的ではない」「物事を深く考えない」「本を読まない」
と、今まで風刺の対象となっている。
それを逆手にとったこの本の描き方は、実に面白い。
日本の皇室も、こんな風なアプローチができる環境にあれば、
もっとラクになれるんだろうに・・・なんて余計なことだが思ってしまった。
また、本の中での女王の態度にも学ぶべき点が、、、。
彼女が、唯一読書について話し合える相手「ノーマン」(元厨房係)や
ニュージーランド出身の「サー・ケヴィン」(女王の秘書)との会話や
彼らに対する処し方にも、なかなか含蓄があって、なるほどね~、と
女王が大人(って七十代後半なのですが)なのに、改めて感心した。
(「年令を重ねること」=「大人」ではないことが多いので、、、)
とにかく、短い小説なので重くないし、たとえ読書好きでなくても、
誰が読んでも「面白い」と思える箇所があるはずですから、一読を
お薦めです。
わがまま母
王冠を戴いた女性の横顔、手には本・・・
そんな表紙に、題名が“やんごとなき”とくれば、、、
そう、女王のお話なんですねぇ。
エリザベス女王がもし読書に夢中になったら・・・という意外なアイデアを
基にした架空の物語です。
ありえない光景が次々と展開し、夢中になってしまう。
クスリと笑わされるユーモアやペーソスがちりばめられ、そこにプラス
イギリス流の多少毒のあるユーモアも。
ひとりの人間として(それも七十台後半の女王が)、読書によって、次第に
変わっていく過程が描かれている。
女王という孤独、周囲の無理解という環境でも、ひとり真剣に読書し、深く
考察し、内面を深めていく姿が素晴しく、共感した。
読書に夢中になり始めた女王が、
どうして読書に取り憑かれたのだろう?と考えるシーンにこんな文がある。
━略
読書の魅力とは、分け隔てをしない点にあるのではないかと女王は考えた。
文学にはどこか高尚なところがある。本は読者がだれであるかも、人がそれを
読むかどうかも気にしない。すべての読者は、彼女も含めて平等である。
文学とはひとつの共和国なのだと女王は思った。
略
本は何者にも服従しない。すべての読者は平等である。
略
それは無名の人間になれる経験、人々と共有できるもの、共同のものだ。
ふつうの人と異なる生活を送ってきた女王は、いま自分がそうしたものを渇望
していることを知った。本のページに入れば、彼女は誰からも気づかれない存在
になれる。
略 ━
こうして女王は、読書の魅力に嵌まっていき、公務にも弊害が、、、。
がしかし、読書を続けた女王は、知的に向上したのみならず、他人の気持を
理解できるようになった自分に気づき、最後には首相たちを前に、
自らが本を著す!と宣言するに至るほどになるのだ。
首相たちが、女王に一体何を書かれるのか、と戦々恐々とするなかでの会話も
とても面白い。
その一部を・・・
━ 略
「私はよく常識に富んでいるといわれますけれど、裏を返せば、それ以外の
ものはたいしてもっていないということで、そのせいでしょうか、歴代の政府の
要請に応じて、無分別な、往々にして恥ずべき決定に、消極的ながらも関わらず
を得なかったのです。時おり、自分が体制の香りづけのために、あるいは政策の
臭いを飛ばす為に送り込まれた香りつき蝋燭のような気がしたものです。・・・
近頃の君主制は政府支給の脱臭剤にすぎないのかしら。
略 ━
日々、義務を果たすのみだった女王が、こんなことを言うようになるんです。
と、著者は<『読書』の力の大きさ>を、女王様の姿を借りてアピールしたかった
のでしょうか。
それなら、大成功ですね。
英国の王室や女王は、「知的ではない」「物事を深く考えない」「本を読まない」
と、今まで風刺の対象となっている。
それを逆手にとったこの本の描き方は、実に面白い。
日本の皇室も、こんな風なアプローチができる環境にあれば、
もっとラクになれるんだろうに・・・なんて余計なことだが思ってしまった。
また、本の中での女王の態度にも学ぶべき点が、、、。
彼女が、唯一読書について話し合える相手「ノーマン」(元厨房係)や
ニュージーランド出身の「サー・ケヴィン」(女王の秘書)との会話や
彼らに対する処し方にも、なかなか含蓄があって、なるほどね~、と
女王が大人(って七十代後半なのですが)なのに、改めて感心した。
(「年令を重ねること」=「大人」ではないことが多いので、、、)
とにかく、短い小説なので重くないし、たとえ読書好きでなくても、
誰が読んでも「面白い」と思える箇所があるはずですから、一読を
お薦めです。
わがまま母