ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

文芸散歩 谷川徹三編 宮沢賢治童話集 「銀河鉄道の夜」 「風の又三郎」 岩波文庫

2013年07月30日 | 書評
イーハートーヴォの心象スケッチ 宮沢賢治童話傑作集 34話 第11回

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宮沢賢治作 「風の又三郎」 他18篇 (3)
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21) 猫の事務所
この話は明確にお役人批判です。第6事務所の「猫の歴史と地理」の仕事ぶりと人間関係を描いています。所長は黒猫、第1書記は白猫、第2書記は虎猫、第3書記は三毛猫、第4書記は釜猫です。どうも第4書記はキャリアーではない事務職のようです。皆から無視されるか白い目で見られています。釜猫が風邪をひいて休んだ時、原簿を取り上げられ仕事ができずつらい思いをしていましたが、上司から事務所は解散を命じられました。たいして世の中に役に立たない仕事ですが、その中で意地悪をしたりいじめたり、いやな人間関係ですね。

22) ありときのこ
蟻の軍隊の仕事の話です。蟻の歩哨(門番)が立っていますと、2匹の蟻の子がやってきて、楢の木の下に白い建物ができていると注進します。歩哨はじっとそれを見て頭をかかえてしまいました。自分はここを離れられないから、子供たちに陸軍測量部へ報告するようにたのみました。そして蟻の子供らが帰ってきて歩哨にいいました。「あれはキノコだから心配するな」

23) やまなし
宮沢賢治の童話には幻燈という言葉が使われます。これはイメージ、心象、映像という意味です。2匹の蟹子供らは河底で泡を吹きながら、いろいろなものを見ます。タラムボンとはこの吐き出す泡のことのようです。お魚やそれを取りに来るカワセミ、流れ去る樺の花、山梨などのスケッチが描かれています。

(つづく)

読書ノート 東京電力福島原発事故調査委員会著 「国会事故調 報告書」 徳間書店

2013年07月29日 | 書評
憲政史上初めての国会事故調査委員会による東電福島第1原発事故報告書 第7回

要旨から(3)
4) 事故対応の問題点
 東電の事故対応の問題点は次の5点にまとめられる。
①事故時に社長と会長の二人が本社不在で迅速な連絡に支障をきたした。
②シビアアクシデント対策が機能せず、緊急時マニュアルも役に立たなかった。
③東電(現場ー本店)ー保安院ERCー官邸の指揮命令系統の混乱である。特に本社が十分に現場の状況を把握し、情報を官庁へ報告するという基本が取れなかった。
④本社が技術的援助ができなかったことである。原発事業の最高責任者である武藤副社長がオフサイトセンターに行き、官邸の技術的質問に黒岩フェローが答えられず、斑目安全委員長のトンチンカンな指示を社長が是認するなど、現場の第1線を支援する意識も体制も整っていなかった。
⑤官邸の意向を探るような清水社長の「全員撤退問題」に端的に現れている東電の経営体質がある。民間企業でありながら自律性と責任感に乏しい特異な経営体質が、本事故において政府を事故当事者に巻き込み東電の責任を曖昧にしようとしたのだ。東電は今になって官邸の誤解や過剰介入を責められる立場にはなく、むしろそういう事態を招いた張本人である。撤退問題は官邸の意向を探り、事故処理において政府官邸を共犯にする為に仕組まれた罠であった。

 次に規制官庁(政府組織)事故対応の問題点は、整備してきた災害対策のツールを地震津波のために失い原子力対策本部と事務局、現地対策本部は情報の機能不全に陥り全く官僚機構は事故対応のイニシャティブを取れなかった。官僚の無能及び機能不全に対して、官邸対策室だけが総合調整や意思決定(避難指示を含めて)を迅速に進めた。東電のテレビ会議システムを利用した官邸・東電統合事故対策本部がすべての情報と指揮を執り官僚機構は蚊帳の外に置かれた。ただ官邸にはベントや海水注入の遅れの現場の理由がつかめず、焦りと東電への不信から、無用な指示を出し続けた点は反省しなければならない。災害に混乱した対応は付き物で後からいくらでも指摘できるが、訓練のような整然とした対応は理想である。これをあまり責めることはできない。要は国民を守る視点で行なったかどうかによる。官邸政治家や官僚機構に真の危機管理意識がが不足していた。状況によっては国民を守ると同じように作業者の命を守るため全員撤退もありうることが危機管理の基本である。玉砕を叫んで戦地に突入するだけが将の器では無い。本当に原発が破滅的でこれ以上打つ手はなく撤退しか道が残されていない場合の判断は現場に任せ、速やかに住民を避難させることが政府の役割ではなかったのだろうか。

 福島県の事故対応の問題点は、オフサイトセンターの立ち上げに失敗し、オフサイトセンターも避難地域に入った。通信手段を失って関連市町村への連絡指示は困難を極めたことである。放射線緊急時モニタリングが実施できず、住民を一時高濃度域に避難させたことは政府と地方自治体の失敗である。また住民への避難情報もなぜ避難が必要かを説明できていない。何もいわずとにかく着の身着たままで追い立てるように3km、10Km、20Kmと避難させた。たとえ不確実な情報でも政府の判断基準となった情報は住民に説明しなければならない。「無用の混乱を恐れて」という官僚用語は実は「愚民政策」の裏返しにすぎない。

(つづく)

文芸散歩 谷川徹三編 宮沢賢治童話集 「銀河鉄道の夜」 「風の又三郎」 岩波文庫

2013年07月29日 | 書評
イーハートーヴォの心象スケッチ 宮沢賢治童話傑作集 34話 第10回

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宮沢賢治作 「風の又三郎」 他18篇 (2)
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18) 雪渡り
言葉のリズム、繰り返し、擬音、内容の規則的展開など実に美しい文章です。これはへたな言葉で表現するより読んでみるに限ります。そして狐と人の子の心温まる交友録です。では蛇足ながらこの話の筋を追いましょう。「堅雪かんこ、しみ雪しんこ」と囃子ながら四郎とかん子は小さな雪沓をはいて、キック、キック、トン、トンと野原に出ました。そこに小さな白狐、子狐紺三郎が現れて、四郎とかん子を狐の「幻灯会」にお誘いしました。幻灯会とは①お酒飲むべからず、②罠に注意せよ、③火を軽蔑すべからずというお話です。二人は鏡餅をお土産に持って出かけました。狐の幻灯会では子狐紺三郎が立派に司会を務めました。幻灯会はお囃子の歌が楽しく、「堅いお餅はかったらこ、白いお餅はべったらこ」、「昼はカンカン日の光、よるはツンツン月明り」などとリズミカルに歌われ、二人は栗のお土産を貰って里に帰りました。

19) 蛙のゴム靴
カン蛙、ブン蛙、ベン蛙は生意気で悪戯好きの友達でした。3匹は雲の峯の形を見る「雲見」をやっていました。そこで人間界ではゴム靴がはやっているという話がでて、カン蛙はほしくてたまりません。そこで友達の野ねずみに頼みました。野ねずみは大変苦労してゴム靴を手に入れカン蛙にあげました。かっこいいゴム靴を履いたカン蛙は得意でたまりません。そこへ花婿探しの娘ルー蛙がやってきてそのゴム靴に一目ぼれして、カン蛙と結婚することになりました。結婚式に呼ばれたブン蛙とベン蛙は面白くありませんので、意趣返しをしてやろうと企みました。杭穴にカン蛙を落とし込もうとしましたが、3匹ともその穴に落ちてしまい、ルー蛙はお父さん蛙に頼んで3匹を引き上げました。それから3匹は仲良く暮らしました。

20) カイロ団長
30匹のアマガエルは庭を作る仕事をやっていました。或る夜「舶来ウイスキー1杯2厘」という看板につられて店に入りました。30匹のアマガエルは1匹当たり300杯以上のウイスキーを飲み酔いつぶれしてしまいました。店主のトノサマガエルはアマガエルを1匹ずつ起こして感情を迫りましたが、誰一人払えるものはいません。この話の銭勘定のところが妙に細かく計算されます。勘定の1%も払えるアマガエルはいなかったのです。そこでトノサマガエルは警察に突き出す代わりに子分にして働かせる約束を取りました。そしてこの団体を「カイロ団」と呼び、木を集めたり、花の種を採集したり、石を運んだり、その仕事のノルマが能力の100倍以上もあって、アマガエルらはくたばってしまいました。もう警察に捕まっても裁判で断首刑になってもいいやという気持ちになっていました。そこへ王様からのお達しが出ました。人を働かすとき命令者はまず自分でやってみること、そうしなければ鳥の島へ島流しにするという。トノサマガエルとて、とてもできるものではありません。次の王様の命令はすべての生き物は哀れなもので、憎しみ合ってはいけないというものでした。こうしてアマガエルとトノサマガエルは仲直りをしました。けだし王様は名君ですね。大岡裁きですが、この話はちょっと複雑な内容を持っています。現代社会に焼直すと、サラ金で借金を払えない人に強制労働を課すようなものです。王様は労働規制当局みたいに、奴隷労働を禁止します。21世紀の労働市場が低賃金、無制限過酷労働に傾く世情を批判しているようでもあります。

(つづく)