ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 町田徹著 「日本郵政ー解き放たれた巨人」 日経新聞社

2013年07月07日 | 書評
私的独占企業体「郵政」を生んだ小泉首相・竹中大臣の功罪 第8回

3) 橋本首相の行政改革
 1993年自民党は一度下野し、1994年7月社民党・さきがけと村山富一連立内閣を組んだ。その内閣の通産大臣が橋本龍太郎氏で、郵政省と通産省は10年来IT分野で権限を巡って争いをしていた。その二元行政に苦々しく思っていた橋本氏は首相になったら最優先課題に行政改革(省庁再編)を志したという。1996年1月首相となって橋本行革が開始された。橋本行革で郵政改革は大蔵省改革とならぶ柱となった。そのときの郵政省事務次官は五十嵐三津雄氏で行革反対の先頭に立った。郵政族のドンは当時は小沢一郎氏である。小沢が自民党を飛び出してからは小渕恵三が郵政族のドンとなった。1997年8月22日、行革会議は「中央省庁の1府12省への再編」と「郵政3事業の見直し」の集中審議を行なった。9月3日に出た行革会議中間報告は「簡保は民営化、郵貯は民営化のための準備に入る。郵便は引き続き国営事業とする。通信放送業務は総務省の管轄。情報通信は産業省に移管」という郵政省官僚にとっては衝撃の郵政解体案であった。自民党行革推進本部は郵政3事業を一体のままで国営事業として残す案をまとめ、行革会議に対抗した。ここで郵政族議員の糾合に動いたのが郵政官僚と特定郵便局長会であった。郵政官僚は国営化死守の一点張りで妥協の余地はなかった。水面下でYKKトリオ(加藤・山崎・小泉)の調整懐柔策や「運輸逓信省」などの案が浮上したが、煩雑になるので割愛する。結局1997年11月16日政府の行革会議が行われ、首相権限を強化する内閣法改正、内閣府の設置、厚生省と労働省の統合、環境庁の環境省への格上げ、通産省の改組などが決まった。白見郵政大臣の妥協案も空しく、野中官房長官の腹は決まっていた。18日閣議で首相一任を取り付け、政府の最終案は「郵政省テレコム3局を2局として総務省へ移管する。郵政3事業をまず郵政事業庁へ移管し、2003年に政府全額出資の郵政公社に移管する」という内容であった。12月3日行革会議は最終報告をまとめた。これで郵政3事業が民営化に向けて長い道のりを歩むことになった。経済失政で人気をなくした橋本首相は翌年1998年7月の参議院選挙で大敗して退陣した。後継首班選挙で小渕恵三、梶山静六、小泉純一郎氏が立候補したが、小渕恵三氏が首相となった。
(つづく)


文芸散歩 大畑末吉訳 「アンデルセン童話集」 岩波文庫

2013年07月07日 | 書評
デンマークの童話の父が語る創作童話集 156話 第58回

122) 民謡の鳥
昔の異教時代、ヴァイキングの時代には、今はないルーネ文字に記された物語は吟遊詩人のたて琴に乗って歌われました。詩人が王の姿をした亡霊が浮かぬ顔をして嘆き悲しむ姿を見て、亡霊に尋ねますと、自分の若いころの勇気と力と業績を伝える人がいないので、安心して憩う事ができないというのです。吟遊詩人がその王の偉大さをたたえると、亡霊はうれしそうな顔をして空に舞い上がりましたとさ。

123) 小さなみどりたち
バラの木を食いつぶすアブラムシの緑の大群は「アリの乳牛」とも「小さい緑」とも呼ばれています。

124) ニッセと奥さん
いたずらをする小人の妖精をニッセと呼びます。庭師の奥さんは、本を読み詩をそらんじる文学の才能を持っていました。「つなぎ」と呼んでいる韻文によって美しい詩を作ることができました。庭師の旦那はそんな奥さんの文学の才能よりは、鍋に気を付けて料理してほしいだけです。奥さんの甥の神学生がきて、奥さんと美文について話を始めますと。奥さんは料理のことはほったらかしになります。そこでいたずら好きのニッセがいつもお鍋の火を吹いて煮こぼれさせました。ところが奥さんが「小人ニッセ」という詩を書いて読み上げると、それを聞いたニッセは奥さんの味方になりいたずらをしなくなりました。ずるいのは人間臭くなったニッセでした。
(つづく)