ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 東京電力福島原発事故調査委員会著 「国会事故調 報告書」 徳間書店

2013年07月30日 | 書評
憲政史上初めての国会事故調査委員会による東電福島第1原発事故報告書 第8回

要旨から(4)
5) 被害状況と被害拡大の要因
 本事故は結果的に、チェルノブイリ原発事故の約1/6にあたる放射性物質900Bqを大気に放出した。福島県内1800キロ平方の広大な面積が年間5mSv以上の線量で汚染された。住民1万4000人の外部被曝線量推計によると、1mSv以下が57%、1ー10mSvが42.3%、それ以上が0.3%であったという。政府の指示によって避難した住民は約15万人に達した。半径20km以内の警戒区域該当者は約7万8000人、20Kmを越えて20mSvの汚染地域である計画的避難区域該当者は約1万人、20-30Km内で計画的避難区域を除く緊急時避難区域の該当者は約5万人となる。安全委員会は2006年国際基準となっている防御措置を導入すべく防災指針の見直しを検討したが、防災指針を強化することが住民の不安を募りひいてはプルサーマル導入期にあったためそれへの影響を恐れた保安院(もう保安院は規制官庁ではなく原発推進官庁に成り下がっていた)の懸念によって見直しは見送られた。2007年複合災害を想定した原発防災対策を保安院は進めようとしたが、推進官庁や一部立地自治体の反対にあって頓挫したままであった。住民保護のために政府は緊急時対策支援システムERSSとSPEEDIを整備してきた。ERSSによって放射性物質の放出量を予測し、SPEEDIによって放射性物質の拡散状況を予測するものである。逆に言えば事故時ERSSの放出量データが得られない場合は、SPEEDIの予測は活用できないことであり、原子力災害関係者には予測システムの限界を認識していた者もいた。それでも安全委員会が計算した逆推定値はたとえ不確かであったとしても、避難指示に役に立ったはずだが顧みられることなく防災本部の官僚によって無視された。緊急被曝医療体制の今回のような広域被曝を想定していなかったので、指定病院が避難地域となって機能しなかった。こうして検証してゆくと、すべての防災計画は絵に書いた餅みたいな官僚作文に終って何一つ機能しなかった。また東電の原発作業員には事故当初線量計を全員に持たしていなかったことで被爆量は推定によるしかない。本事故によって防災指針は無能である事が曝露されたようで、日本の国の危さが思いやられる。せめて今後住民と原発作業員の長期健康モニターを実施し、汚染地域のモニタリングと除染を実行し(莫大な費用がかかるが)、汚染土壌の仮置場の確保することである。(私論:それを東電の費用でやらせることだ。そうすれば原発は割に合わないことが身にしみて分かるはずである。被害を受けた国民の税金でやって東電は生き返ろうとするがそれは許してはいけない。)

(つづく)

文芸散歩 谷川徹三編 宮沢賢治童話集 「銀河鉄道の夜」 「風の又三郎」 岩波文庫

2013年07月30日 | 書評
イーハートーヴォの心象スケッチ 宮沢賢治童話傑作集 34話 第11回

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宮沢賢治作 「風の又三郎」 他18篇 (3)
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21) 猫の事務所
この話は明確にお役人批判です。第6事務所の「猫の歴史と地理」の仕事ぶりと人間関係を描いています。所長は黒猫、第1書記は白猫、第2書記は虎猫、第3書記は三毛猫、第4書記は釜猫です。どうも第4書記はキャリアーではない事務職のようです。皆から無視されるか白い目で見られています。釜猫が風邪をひいて休んだ時、原簿を取り上げられ仕事ができずつらい思いをしていましたが、上司から事務所は解散を命じられました。たいして世の中に役に立たない仕事ですが、その中で意地悪をしたりいじめたり、いやな人間関係ですね。

22) ありときのこ
蟻の軍隊の仕事の話です。蟻の歩哨(門番)が立っていますと、2匹の蟻の子がやってきて、楢の木の下に白い建物ができていると注進します。歩哨はじっとそれを見て頭をかかえてしまいました。自分はここを離れられないから、子供たちに陸軍測量部へ報告するようにたのみました。そして蟻の子供らが帰ってきて歩哨にいいました。「あれはキノコだから心配するな」

23) やまなし
宮沢賢治の童話には幻燈という言葉が使われます。これはイメージ、心象、映像という意味です。2匹の蟹子供らは河底で泡を吹きながら、いろいろなものを見ます。タラムボンとはこの吐き出す泡のことのようです。お魚やそれを取りに来るカワセミ、流れ去る樺の花、山梨などのスケッチが描かれています。

(つづく)