ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 東京電力福島原発事故調査委員会著 「国会事故調 報告書」 徳間書店

2013年07月25日 | 書評
憲政史上初めての国会事故調査委員会による東電福島第1原発事故報告書 第3回

結 論
1) 事故の根源的原因: 事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係において、規制する側と規制される事業者の力関係の立場が逆転することによって原子力安全についての監視・監督機能が崩壊したことに求められる。何度も事前の安全対策を立てるチャンスがあったことを考えれば、本事故は自然災害ではなくあきらかに「人災」である。
2) 事故の直接的原因: 事故の直接的原因について、安全上重要な機器の地震による損傷がなかったとは言えない。むしろ1号機については放射性物質の漏れ状況からして小規模損傷LOCAが起きた可能性を否定できない。しかし未解明な部分が残っており引き続いて第3者による検証が望まれる。
3) 運転上の問題の評価: シビアアクシデント対策がないまま全電源喪失に陥った場合打てる手は限定される。過酷事故SAに対する十分な準備と訓練、機材の点検がなされ、SA緊急時の運転手順があれば、より効果的な事故対応が出来た可能性は否定できない。即ち東電に組織的問題であると認識される。
4) 緊急時対応の問題: 事故の進展を止められなかったこと、あるいは被害を最少化出来なかった最大の原因は、官邸および規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと、および緊急時において事業者の責任、政府の責任の境界が曖昧であったことにある。
5) 被害拡大の原因: 避難指示が住民に的確に伝わらなかった点について、これまでの規制当局の原子力防災対策への怠慢と、官邸・規制当局の危機管理意識の低さが今回の住民避難の混乱の根底にある。
6) 住民の被害状況: 被災地の住民にとって事故の状況は続いている。放射線被曝の健康問題と生活破壊、環境汚染状況は深刻である。いまなお15万人が避難生活を余儀なくされている状況の最大の原因は、政府・規制当局の住民の健康と安全を守る意志の欠如と対策の遅れ、被災住民の生活基盤回復の遅れ、さらに被災者の視点を考えない情報公表にあった。
7) 問題解決に向けて: 本事故の根本的原因であった人災を特定の人間のせいと帰結しないで、組織の利益を最優先する組織依存マインドを改め、組織的・制度的問題を解決することなくして再発防止は不可能である。
8) 事業者の組織的問題: 東電のガバナンスは自律性と責任感に欠け、規制を骨抜きにする態度に終始してきた。住民の健康被害と安全をリスクとしないで、既設炉の運転効率低下と訴訟問題を経営リスクと考えていた。法規制された以上の進んだ安全対策を採用せず、つねにより安全な運転を志す姿勢に欠け、緊急時に発電現場の事故対応支援ができない東電経営陣は、原子力事業者として適格性に疑問が持たれる。
9) 規制当局の組織的問題: 規制当局は組織の形態や位置づけを手直しするだけの従前の官僚的対応では国民の安全は守れない。官僚組織の利益(国営益より省益重視)だけを行動指針とする内向きの態度を改め、実態の抜本的転換を行い、国際社会から信頼される規制機関への脱皮が必要である。
10) 法規制: 原子力法規制はその目的、体系を含めた抜本的な改正が必要である。その見直しに当たっては世界の最新の技術的知見を反映し、反映してゆく仕組みを構築すべきである。

(つづく)

文芸散歩 谷川徹三編 宮沢賢治童話集 「銀河鉄道の夜」 「風の又三郎」 岩波文庫

2013年07月25日 | 書評
イーハートーヴォの心象スケッチ 宮沢賢治童話傑作集 34話 第6回

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宮沢賢治作 「銀河鉄道の夜」 他14篇 (4)
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8) 注文の多い料理店
あまりに有名な童話です。森の道に迷った狩人2人が、腹が減って「西洋料理店 山猫軒」の看板のある家に入りました。やたら戸の多い店で高級料理店化と間違いました。扉にはいちいちお客さんに注文を付けます。最後の扉に「どうかからだじゅうに壺の塩をたくさんよくもみ込んでください」と書いてあるのを見て、狩人は初めてこの店の目的が分かったのです。料理を食べるのはお客さんでなくお客さんが山猫に料理されるのです。二人は危ういところで救出されました。推理小説並みの面白さがあります。

9) からすの北斗七星
カラスの義勇艦隊は、雪の中の田畑で演習を行っていました。カラスの大尉には許嫁がいました。あす強い山ガラスとの決戦をまえにして許嫁に別れの挨拶をしました。北斗七星を見て決戦の行方を祈るのでした。18隻のからす義勇艦隊は北を目指して突撃です。一羽の山ガラスを発見して大尉は突撃し見事これを一撃しました。本隊に帰った大尉は功績を認めらえて少佐に昇進しましたが、殺された山ガラスのことを考えると悲しい気持ちがしました。「北斗七星さま、どうか憎むことができない敵を殺さないでいいように、早くこの世界がなりますように。そのため自分は何回殺されてもかまいません」と願いをかけました。何も言うことがないくらいこの話の目的は表現されています。

10) 雁の童子
この話は仏教説話の類になります。昔のインドを舞台としたお堂の由来を巡礼のおじいさんから聞き取るという設定です。須利耶という人のいとこは鉄砲打ちが好きで無益な殺生を繰り返していました。6羽の雁を次々と撃ち落しましたが、それは雁の形をした天の家族でした。撃ち落とされた天の人は須利耶に子供の雁を預けてゆきました。この童子はけなげに育ちました。ほかの子供から「雁の捨て子、雁童子」とはやし立てられても決して動じません。そうはいっても童子は誰もいないところで泣いていたのです。童子が12歳のとき都の塾に入れて教育しました。童子は親思いで自分も働きたいと申し出ましたが、須利耶夫婦は貧しいながらも都に養育費を送り続けました。あるとき大寺の跡が発掘され、壁に3人の童子の絵が描かれていました。その一人はこの雁童子にそっくりでした。童子は天から家族のお迎えが来たと察しました。

(つづく)