ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 町田徹著 「日本郵政ー解き放たれた巨人」 日経新聞社

2013年07月02日 | 書評
私的独占企業体「郵政」を生んだ小泉首相・竹中大臣の功罪 第3回

序(3) 
 上の組織図は2007年に設立された持株会社「日本郵政株式会社」(ただし当面は100%政府持株)で、郵便、郵便貯金、簡易保険、窓口ネットワークの4子会社を従えるコングロマリットである。その規模は他を圧倒する。職員数は常勤・非常勤を合わせた37万人でトヨタ自動車の26万人を超える。郵便の総引き受け数は250億通、ヤマト運輸の25億個のざっと10倍、郵便預金残高も214兆円を誇り、メガバンク筆頭の三菱UFJ銀行の113兆円の2倍である。いかに巨大な存在であるかが分かる。明治以来130年の蓄積のすごさを表している。小泉首相・竹中民営化担当大臣の国会答弁では、総論ばかりで具体的な中味は語らなかったので、誰しも郵政民営化後の実体はよく分からなかった。民営化の利点といえば料金の低廉化を期待する人が多い。実際に道路公団民営化で高速料金は安くなったし、NTTの誕生では他者との競争原理と電線というインフラ解放によって劇的に通話料金やインターネット使用料が安くなった。しかし今回の郵政民営化では料金の低廉化は全く期待できないばかりか、むしろ料金の値上げさえ示唆する有様である。これは「民営化」の概念が郵政民政化では通用しない事を示すものである。民営化を選択するなら、単に公団を「株式会社化」するという看板替えではないはずであろう。NTTのような地域分割さえ郵政の場合は考慮されていない。つまり独占力、市場支配力をそのまま日本郵政に付与しているのだ。小泉首相は民営化の中味をよく議論したのだろうか。どういう構想で臨んだのか、または構想を持っていなかったのだろうか。公務員という呼称を許さない形だけの民営化であったように思われる。功をあせって実質的な中味は官僚の裁量に任せたか、むしろ官僚は民営化を武器に、人事・経営内容について国会の審議を不要とし、国民の意見を聞く必要のない自主的な経営、運用の権利を獲得したといえる。郵政官僚の大勝利である。国営という形が宿命的に負う国会の監視という縛りから脱することが出来、かずかずの独占という優遇策を法律で確保したままで最初から市場原理を排除し、従業員カットなどによる経営合理化を行なって役員報酬を自由にして、民業を圧迫する新規事業(金融商品開発)という拡大策を無制限に行え、数百兆円の金の運用が出来るというメリット(国民にとって民営化の弊害)を発揮できるのである。小泉首相という偏執狂が行なった郵政改革とはこのようにお粗末な「改革」であったというべきだ。さて日本郵政公社から日本郵政株式会社への動き、およびその後の政治の動きとして国民新党と民主党連立政権の郵政民営化の見直し作業を整理して本論に入ろう。
(つづく)


文芸散歩 大畑末吉訳 「アンデルセン童話集」 岩波文庫

2013年07月02日 | 書評
デンマークの童話の父が語る創作童話集 156話 第53回

110) 氷姫

 岩波文庫第5分冊の中で最大の長編童話です。約90ページにもなりますので15節に分けてあります。お話の舞台はスイスのアルプス地方です。スイスの雪のクレパスに落ちて死んだ母親と同様に、息子も氷姫にとらわれて水の中で死ぬという設定です。自然の厳しさと人の命の悲しさを表現したかったのでしょうか。話に入りましょう。氷河が小さな山の町グリデンワルトの近くの2つのホルンのふもとに広がっています。この町は観光の町で、お客さんが来ると子供たちが商売をするのです。家の人が作った木彫の小さな家の模型を売ります。ルーディという男の子がこの町にいました。母方のおじいさんが住んでいてそこに厄介になっているのでした。ルーディは羊飼いもできました。おじいさんの生まれたアイリンゲン村はスウェーデン人を祖先にするといわれています。ルーディのお父さんは駅馬車の馭者でしたが、ルーディが1歳のころ亡くなって、お母さんは赤ん坊を連れておじいさんの住むベルン高地に向かいました。ところが最後の峠でクレパスに落ちて亡くなりました。子供のルーディは助かりました。氷河に住むという氷姫は子供は助かったのを見て、あの子を自分の手に取り戻すと叫びました。こうしてルーディは氷姫から命を付け狙われたのです。氷姫は手下の「めまい」を選んでいけにえを誘い出し底知れぬ淵に誘い込むのです。母親方のおじいさんに養われてルーディは8歳になりました。ルーディの勉強のためと先々のため、ルーディは今度は父方のおじさんが住むローヌ渓谷の第2の故郷に移ることになりました。おじいさん、老犬アヨーラ、猫、山羊たちにさよならを言って、2人のガイドに伴われてユングフラウ、メンヒ、アイガーがそびえる山々を見ながら雪の海を歩くアルプス越えの旅に出ました。おじさんはまだ働き盛りの猟師で、桶屋の仕事もできました。道路ができこの地方の生活はずいぶん楽になったそうです。フランスの軍隊がこの地にやってきて道を切り開いたそうです。ルーディはおじさんに連れられた山に入り漁師の仕事をみっちり仕込まれました。ところがある日なだれが襲いおじさんは亡くなりました。それからはルーディがその家の柱になり、ヴァレー州で誰一人知らないものはいないほど射撃の名手となったのです。ルーディには女の子の友達がいました。先生の娘アネッテとベックス町の金持ちの水車小屋の娘バベッテです。ルーディの気持ちは18歳の娘バベッテに恋していました。あるひルーディはベックスの町へ出かけましたが、留守でした。バベッテさんと父親はインターラーケン(湖の間の町という意味)の射手組合大会に出かけていたのです。そこでルーディはインターラーケンに出かけ射手大会で一等賞をとり、バベッテ1家とすっかり親密になりました。ルーディは「幸運というものは自分自身を信じ、神様はクルミを下さるがそれを割るのは自分だということを忘れない人に現れるのだ」と確信している、いつも前向きの青年でした。インターラーケンからの帰り道の山の中で、賞品をたくさんもらって荷物がいっぱいのルーディに、氷姫が変装した娘が近寄り、山道を案内してあげようと手を握ってきました。その手の冷たいことにびっくりしたルーディは断って、無事に山を下りローヌ渓谷に出ました。ルーディの育ての母親は賞品を見て大喜びで、ルーディに運が向いてきたといいました。

 ルーディはベックスの町の水車小屋へ出かけ、水車小屋の主人とイヌワシの話に花を咲かせて、バベッテ尾さんとむつまじく話し合いました。二人の間には内密の婚約まで進んだようです。そして後日ルーディはバベッテのお父さんに結婚を申し込みました。お父さんは鷲のひなを生け捕りにして持ってきたら娘をやるという条件を付けました。そこでルーディは友達を2人連れて、何段も梯子をかけて岩場をよじ登り、飛び掛ってきた親の鷲を鉄砲で撃ち殺し、巣の中にいた鷲のひなを縄をかけて捕まえました。岩場では氷姫と手下のめまいがルーディを陥れようと狙っていましたが、ルーディの巧みな岩場のぼりには手も出せませんでした。こうしてルーディは正式に水車小屋のバベッテと婚約の運びとなりました。夏には婚礼の予定でした。春がやってきて、ローヌ河に沿って緑は滴るばかりでした。鉄道を敷くために道路とトンネルをつくる人間の営みを見て、氷姫は「太陽の子といわれ精神力といわれる人間よ、自然の力こそ支配者なのだ。わしは滅ぼしてやるぞ」と叫ぶのでした。レマン湖もモントリオールという町にバベッテの名付け親のイギリス夫人が住んでいます。名付け親からバベッテ親子と婚約者ルーディに遊びに来るように招待されました。バイロンの詩「ションの囚人」に書かれた古いションの城があります。またこの話の展開として、名づけ親のいとこが二人の間に入ってきて、恋のさや当て(愛の遊戯)という嫉妬のお話が挿入されますが、そこへ氷姫の悪霊が介入してルーディを誘惑し氷の城に落とし込もうと画策します。水車小屋に戻ってから二人は仲直りをしました。婚礼の式は名付け親の希望としてモントリオールの教会で挙げることになりました。ローヌ渓谷にアフリカの熱い風フェーンが吹き荒れました。夜の幻、自然力の霊、それはめまいのなす技です。その夜バベッテは悪夢を見ました。結婚してから何年もしてルーディが山の中で消える夢でした。あすはいよいよ二人の結婚式です。3人はヴィルヌーブの町に向けて出発しました。ヴィルヌーブについてから夕方までにまだ時間がありましたので、二人は湖の小さな島へボートを漕いで島に上陸しました。そこで踊りを踊って二人は幸せの絶頂期にいました。するとボートのロープがゆるんで、ボートが流されたのです。ルーディは衣服を脱いで湖へ飛び込みました。すると湖の底に氷河のクレパスに落ちた人々が迎えに来ており、教会の鐘の音も聞こえました。そしてルーディは深く深く潜ってゆきました。再び浮かび上がることはありませんでした。氷姫がルーディをやっと捕まえたのです。
(つづく)