ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 東京電力福島原発事故調査委員会著 「国会事故調 報告書」 徳間書店

2013年07月26日 | 書評
憲政史上初めての国会事故調査委員会による東電福島第1原発事故報告書 第4回

提 言

1) 規制当局に対する国会の監視: 規制当局を監視する目的で、国会に原子力に係る常設の委員会を設置する。この委員会は規制当局、利害関係者、学識経験者から意見を聴取・調査を恒常的に行なう。この委員会は最新の知見をもって安全問題に対処するため専門家からなる諮問機関を設ける。この委員会は今回の事故検証で発見された多くの問題について恒常的な監視を行なう。この委員会は事故調査報告について今後の政府の履行状況を監視し定期的に報告を求める。
2) 政府の危機管理体制の見直し: 政府の危機管理体制の抜本的な見直しを行なう。指揮命令関係の一本化を制度的に確立する。放射能の放出にともなうオフサイトの対応は、政府と自治体が中心となって、役割分担を行なう。事故時における発電所内(オンサイト)での対応は、第一義的に事業者の責任とし、政治家の支持介入を防ぐ仕組みとする。
3) 被災住民に対する政府の対応: 被災地の環境を長期的にモニターし住民の健康と安全を守る。長期にわたる健康被害に対応するため、国の負担による継続的検査と健康診断、医療提供の制度を設ける。環境に広く分布する放射性物質は長期的にモニター監視し、汚染拡大防止策を講じる。国は汚染場所の基準と作業スケジュールを明らかにする。
4) 電気事業者の監視: 事業者が規制当局に不当な圧力をかけないよう、事業者と規制当局の接触にルールを設ける。電気事業者間において安全に向けた先進事例紹介と、達成に向けた相互監視体制を構築する。東電に対しては経営管理体制、危機管理体制、情報開示体制を再構築し、高い安全性目標に向かって継続的な自己改革を促す。電力事業者を監視するために立ち入り調査権を伴う監査体制を国会主導で構築する。
5) 新しい規制組織の要件: 規制組織を抜本的に改革する。高い独立性、透明性、専門能力と責任感、一元化、自律性を持った組織を作るものとする。
6) 電子力法規制の見直し: 世界の最新の技術的知見を踏まえ、国民の健康と安全を第1目的とする一元的な法体系を再構築する。安全確保のため第一義的な責任を負う事業者、そして事故の時この事業者を支援する各当事者の責任分担を明確化する。規制当局は世界水準に向けた努力を継続するため、不断の見直しをおこなうことを義務づける。新しいルールは既成の原子炉にも遡及適用(バックフィット)することを原則とし、廃炉または対応が出来る場合の線引きを明確にする。
7) 独立調査委員会の活用: 未解明部分の事故原因の究明、事故収束に向けたプロセス、被害拡大防止策、廃炉の道筋など国民生活に重大な影響を与える問題を調査審議するため、第3者機関として「原子力臨時調査委員会(仮称)」を設置する。

(つづく)

文芸散歩 谷川徹三編 宮沢賢治童話集 「銀河鉄道の夜」 「風の又三郎」 岩波文庫

2013年07月26日 | 書評
イーハートーヴォの心象スケッチ 宮沢賢治童話傑作集 34話 第7回

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宮沢賢治作 「銀河鉄道の夜」 他14篇 (5)
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11) 二十六夜
この話も仏教説話ですが、舞台は北上川のほとりです。梟のお経が4回繰り返され話が展開される設定です。疾翔大力が「悪禽、離苦解脱の道を述べん・・・汝ら審に諸の悪行を作る、悪行をもっての故に、更に又諸の悪行を作る。継起して遂に竟ることなし」というお経です。この悪の連鎖を断ち切るのは捨身大菩薩のように、身を捨てることしかありません。梟夫婦に3羽の兄弟梟がいました。末弟の名前を穂吉といます。穂吉は一番おとなしい性格でした。6月24日の晩、実相寺の林に3羽で出かけました。2羽の兄は説教はいやですぐ逃げ出しましたが、穂吉はじっと聞きいっていました。25日の晩のことです。穂吉が人に囚われて縄で足を石臼に結えられました。人の子供らの悪戯で、飽きた子供らは26日の夜、穂吉の足を折って手放しました。兄弟らはなんとあさましい人間の心を呪って仕返しをしようと相談しますが、梟の坊さんは「人を恨むでない。仇を仇で返してはならない。血を血で洗ってはならない。」と諭すうちに、穂吉は絶命しました。二十六夜待ちの月明りで穂吉の魂は天に召されました。

12) 竜と詩人
竜のチャーナタは洞の中から朝日の出るのを見ています。若い詩人のスールダッタはチャーナタの竜の歌を盗み聞いて、歌競ベに勝ち古い詩人アルタを東の国に去らせたという世評が立ちました。それを恥じた若い詩人のスールダッタは、洞に行き竜のチャーナタに事の是非を正しました。竜のチャーナタは、竜の言葉と詩人の言葉は等しくないから、盗作という世評は当たらないと諭しました。チャーナタは自分の力を誇示したために竜王から10万年の禁固刑を受けた。竜チャーナタは懺悔の歌を歌うのみであると。謙虚な若い詩人は救われました。

13) 飢餓陣営
この話は喜劇の脚本です。登場する主役人物は、パテナン大将と部下の特務曹長と曹長の3人です。あとは兵隊多数です。たらふく食っている大将と、飢餓線上にいる曹長クラスと兵隊が、お菓子でできている大将の勲章をだまして食べて飢えをしのぐさまを喜劇化した1幕の芝居です。曹長は「戦争のためでなく飢餓のために全滅するばかりです。大将の勲章を食えば軍法会議で銃殺は分かっていますが、自分が銃殺されれば兵は飢えをしのげます」という論理で、愚かな大将をだまして勲章を兵に分かち食わせるという筋書きです。芝居の後半は大将自ら新式果樹園体操という軍隊生産方式を伝授することですが、戦争をする軍隊ではなく食料を生産する軍隊という本末転倒のお話になって、軍隊を揶揄することになっています。賢治亡き後、太平洋戦争において南方の島で、多くの軍民が飢餓で全滅したことを予感させるお話です。

(つづく)