ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 町田徹著 「日本郵政ー解き放たれた巨人」 日経新聞社

2013年07月09日 | 書評
私的独占企業体「郵政」を生んだ小泉首相・竹中大臣の功罪 第10回 最終回

4) 小泉首相の郵政改革(2)
 2004年7月の参議院選挙で小泉政権は民主党に敗北した。竹中平蔵の比例代表での大勝ちだけが小泉首相の「郵政民営化」に活路を見出したようだ。論議は「民営化懇談会」から2003年10月より「経済財政諮問会議」に移った。小泉首相が議長で竹中以下閣僚の4名と民間識者の4名が参加した。竹中大臣は「民営化5原則」を提示した。議事は小泉首相の独断場で進んだという。信書便法がヤマトの不参入を招いたとも言えず、信書便法の見直しは不問にされた。このような内容の本質的な齟齬は小泉改革の杜撰さを示すものである。本人は少しも意に介しないことが改革の致命傷となる。「経済財政諮問会議」は閉ざされたままの信書事業への民間参入への努力を欠いたまま、民営化後の郵政公社が「私的独占体」となる事を容認した。小泉首相の最低限の要求は「公務員の身分を剥奪する」事にあったようで、「地域分割」や「持ち株会社の設置禁止」ということは脇に追いやられ忘れさられてしまった。2003年4月に日本郵政公社が発足すると、郵政官僚は概ね3つに分断された。①日本郵政へ移管されたグループ(ドンは団宏明氏)、②総務省の郵政行政局という管理組織へ移管されたグループ(ドンは松井浩氏)、③通信放送グループ(ドンは有富寛一郎氏) 小泉首相から抵抗勢力の作戦本部といわれたのは第2グループである。松井浩氏は2005年に職務を外され退官した。公社副総裁となった団氏が「民営化を前提にした特権の温存」策の象徴とし機能するのである。次々と条件を出して、功を焦る小泉首相や竹中大臣からアメを要求し獲得していった。「経済財政諮問会議」は最初から「地域分割」を諦めていたようだ。それは「M&Aによる企業買収から日本を代表する郵政を守るには強い規模と体力が必要だ」という論理で最初から超独占企業が思考されていた。さらに郵便貯金銀行と簡易保険会社の株をいずれすべて売却する場合、リスク遮断をする必要がある。したがって持株会社の1/3を国が保有する必要があると云う理由で持株会社を親会社のように位置づけている。郵便事業は100%子会社としてぶら下がる方式などが容認されていった。こうして2004年8月2日経済財政諮問会議は結論を急いで「民営化の基本方針骨子」を取りまとめた。

 竹中大臣による「民営化の基本方針骨子」とは以下である。
① 経営の自由化、民間との公平、事業間リスク遮断
② 2007年に日本郵政公社を民営化する。
③ 民営化と同時に職員は公務員の身分を離れる。
④ 移行期間の当初から納税など民間企業と同様の義務を負う。
⑤ 2017年まで持株会社を設置し、4事業会社をぶら下げる。
⑥ 窓口ネットワーク会社は小売、サービスなど地域密着の幅広い事業への進出を可能とする。
⑦ 郵便会社はユニバーサルサービス義務を課し、必要なら優遇措置を講じる。
⑧ 郵貯、簡保会社は民間と同様の法的枠組みには入り、政府保証は廃する。金融市場の動きを見て実質的な民有民営を目指す。
⑨ 民有化前の郵貯・簡保にはなんらかの公的な保有形態を考える。
⑩ 分割については新経営陣の判断に任せる。
2005年4月27日「郵政民営化関連6法案」が閣議決定され、衆議院は辛うじて通過したが、参議院で否決され小泉首相は「衆議院の郵政解散」を行なった。大勝した小泉首相は再度法案を衆議院を通過させた。こうして前代未聞の独占企業コングロマリットが誕生した。企業のフィリーハンドの自由を有し、数々の法律で独占を享受し、130年間に築いた巨大なインフラを分割することなく維持した超優良会社を民間の誰が追い詰めるだろうか。

(完)

文芸散歩 大畑末吉訳 「アンデルセン童話集」 岩波文庫

2013年07月09日 | 書評
デンマークの童話の父が語る創作童話集 156話 第60回

128) 引越し日
搭の番人オーレをクリスマスの節季の引越し日に訪問しました。この日は棚卸や勘定の清算や人の移動があっていつも町の中は大忙しで騒然としています。町はごみ箱をひっくり返したような騒ぎです。小人の妖精まで樽の中に入って引越し騒ぎをしています。それより深刻なことは「死の神の厳かな引越し日」です。この世の清算日です。死神は人生という大銀行の頭取です。死神の乗合馬車こそ厳かな旅です。

129) 夏もどき
夏もどきとはマツユキソウの別名です。雪の下で眠っていた球根が太陽の光に刺激されて美しい花を咲かせます。季節はまだ身を切るような寒さですが、出てくるのが早すぎるという意味で「夏もどき」です。騙されて出てきた花という意味です。日本では雪割草という花がありますが、正月に咲く春の象徴のような花です。

130) おばさん
おばさんはただ芝居小屋を見続けて生きてきた人です。芝居小屋は私の学校ですとおばさんは言います。芝居から歴史や小説や文学や人生を学んできました。町に一つしかない大劇場では天井桟敷から芝居を眺めることができます。役者や道具方の動きが一覧できるので、通の客はこの天井桟敷を好みます。客席の出した火事のためにおばさんは死にそうになったこともありました。おばさんの遺産は結構あったので、ある身寄りのない独身の女の人に譲ることに決めてありました。遺産相続の条件とは、毎年の土曜日の夜は劇場の3階の席を予約し、その席でおばさんのことを思い出すことでした。そこでおばさんは生き続けていたいのです。

131) ヒキガエル
ヒキガエルの一家はよそからきて、お母さんを先頭に井戸の中へ飛び込みました。そこにはアオガエルが住んでいたのですが、ヒキガエルの一家も同居することになりました。醜いヒキガエルの一家には子供がたくさんいました。一番下のヒキガエルの子は井戸の外を見たくて仕方ありません。ある日水をくむ釣瓶の桶が目の前にきたので、その中に飛び込みました。水をくみ上げた下男は桶の中のヒキガエルを見て驚いて靴で蹴飛ばしました。さてここからヒキガエルの子の世界漫遊の旅が始まります。野原の池に住むアオガエルやヒキガエルの大合唱という音楽会にも参加し、前進をつづけました。キャベツ畑の青虫は別に広い世界に興味はありません。ヒキガエルの子は上へ上へと向かう憧れと理想に突き動かされています。コウノトリの背中に乗ってエジプトへゆきたいと近づいたところを、コウノトリの嘴はヒキガエルを捕らえて一飲みにしました。
(つづく)