ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 福島原発事故独立検証委員会著 「調査・検証報告書」 ディスカバー21

2013年07月11日 | 書評
民間シンクタンクによる独立検証委員会が見た福島原発事故の真相 第2回

序(2)
 本論に入る前に、船橋洋一氏が述べる本書の志を聞いておこう。第1に「政府からも企業からもどこからも独立した市民の立場から検証を進めた」という。政府が事故調査委員会を作るという状況の中で、民間事故調には政府事故調にはない歴史的意義を持つものであると云う認識からスタートしたという。その意義とは、
* 巨大技術の事故と被害を専門的知見によって調査検証することは、将来の世代の人々への責任である。
* 公共政策の遂行と政府のパフォーマンスの検証と評価を、政府・業界からも、政治からも独立した民間の立場で行なう。健全な民主主義の発展には欠かせないことである。
* この事故は技術の運用の失敗にとどまらず、企業、政府、さらには戦後の日本人の考え方における「ガバナンスの危機」でもある。
* その検証と教訓を導き出すことが、今後の日本の「国のかたち」の再構築によってかかせない重要なことである。
* この報告書は世界の知的財産として刊行し、報告書を英語で世界に発信する。
そして報告書には次のような観点が織り込まれなければならない。
* 民間事故調は政府と東電が国民を守る義務をどこまで果たしたかを検証することである。つまり政府の責任を明らかにする。
* 事故対応については政府特に首相官邸の意思決定の検証が重要である。
* 事故と被害の原因には、近因、中因、遠因を層別に描き分ける必要がある。
* 事故の見えない部分に目を向け、構造、権力、メカニズム、行動スタイルなど自然科学的分析と社会科学的分析を統合する必要がある。
* 「パニックをおこしてはいけない」という心配のもとで情報操作がおこなわれたが、「情報は誰のものであるか」という視点が必要である。
* 世界の中の東電原発事故という観点をもって、リスク管理のルール、国際協調プロセスの検証が必要である。

 本書の検証内容は以下の12章から構成される。
第1部  事故・被害の経緯
   第1章 福島第1原発の被災直後からの対応
   第2章 環境中に放出された放射性物質の影響とその対応
第2部  原発事故への対応
   第3章 官邸における原子力災害への対応
   第4章 リスクコミュニケーション
   第5章 現地における原子力災害への対応
第3部  歴史的・構造的要因の分析
   第6章 原子力安全のための技術思想
   第7章 福島原発事故にかかわる原子力安全規制の課題
   第8章 安全規制のガバナンス
   第9章 安全神話の社会的背景
第4部  グローバル・コンテクスト
   第10章 核セキュリティへのインプリケーション(省略)
   第11章 原子力安全レジームの中の日本
   第12章 原発事故対応をめぐる日米関係(省略)

 本書の内容のうち、第10章 核セキュリティへのインプリケーションと第12章 原発事故対応をめぐる日米関係については、そのために事故が起きたわけではなく、福島原発事故の検証とは直接の関係は無いので省略する。検証の詳細に入る前に、順序は逆だが先ず本書の結論「総括」を述べておこう。その方が見通しがいいからである。(別に予断に満ちているわけではない、詳細は後に述べる) この福島第1原発事故の最大の特徴は、東日本大地震と津波による全電源喪失に端を発した、炉心溶融と水素爆発を伴うシビアアクシデント(過酷事故)であった。1号機、2号機、3号機の炉心はメルトダウンした。また4号機の建屋が吹き飛び使用済み燃料プールも破損した。その過程で放射能汚染が極めて広範囲に広がり、IAEAがレベル7と位置付ける(旧ソ連チェルノブイリ原発事故に相当する)史上最大規模の原子力災害となった。建屋爆発により数名の方が亡くなり、急性被曝による死者はなかった(低線量被曝による長期の影響である小児白血病などは今は言わないでおこう)が、事故による放射性物質飛散と汚染によって住環境を奪われ、避難を余儀なくされている福島県の住民はいまなお11万人もおられる。農畜産物・水産物への被害、風評被害、生活破壊、雇用喪失、不動産価値の暴落など産業・労働への影響は甚大であった。復興は今なお模索中で効果が出る段階ではないが、ひとり復興予算(早くも無駄使いと流用が始まっているそうな、2012年10月時点の新聞情報)と仕事が増えて喜んでいるのは官僚組織だけである。
(つづく)

文芸散歩 大畑末吉訳 「アンデルセン童話集」 岩波文庫

2013年07月11日 | 書評
デンマークの童話の父が語る創作童話集 156話 第62回

133) ぼろぎれ
デンマークのぼろ切れとノルウエーのぼろ切れの、めくそはなくその言い争いです。言語は比較的近いのですが、ノルウエーは高山ですので言葉は荒っぽく原始的で、デンマークは低地で柔らかな言葉です。ノルウエーには憲法があり、デンマークには文学があるなどという、たわいないお国自慢話です。

134) ヴェーン島とグレーン島
昔シュラン島海岸にヴェーン島とグレーン島という2つの小さな島がありました。嵐の夜ヴェーン島は海の底に消えてしまいました。「ヴェーン島はグレーン島を待っている」という噂話が流れてましたが、そのグレーン島も堤防で囲まれシュラン島と陸続きになって消えてしまいましたとさ。

135) だれがいちばん幸福だったか
お日さまと、露とバラの生け垣の3人は、バラの花の育ての親だと自負しています。風がその話の判定者となりました。3人はバラの花がどんなにか人々の役に立ってきたかを自慢して話しました。若い娘が亡くなったとき棺に横たわった娘の胸を飾ったのもバラの花で、画家に美しく描かれ、詩人にその美をうたわれたのもバラの花です。劇場で舞踏家の足元に飛んでゆくのはバラの花でした。貧しいおばあさんの懐かしい思い出に花咲くのもバラの花でした。どれが一番幸福だったかは言えないというのが風の判定です。
(つづく)