ブログ 「ごまめの歯軋り」

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熊倉正修 著 「日本のマクロ経済政策」

2021年06月24日 | 書評
京都市左京区 「真如堂 金堂」

熊倉正修 著 「日本のマクロ経済政策」 

岩波新書(2019年6月)(その16)

第5章 マクロ経済政策と民主主義―日本が生まれ変わる条件

2) 持続的なマクロ経済政策の要件
現在の国家では公的部門の活動範囲は広くなり、経済政策を逐一国民がチェックすることは難しい。明らかに持続性や合理性を欠く政策を審査し、機能エオチェックする仕組みが必要である。とりわけ財政では持続的な政策を確保するための要件を次のように考えられている。①現実的な想定にもとづく財政の長期的見通しの作成、②長期的な財政の持続性と現実の政策との整合性、③客観的な立場から長期計画を評価する機関の設立、④必要な情報の公開である。国民に数十年先までの客観的な財政見通しを示した上で、短期的な調整と長期的なトレンドを区別しなければならない。今日の日本では政府が恣意的なシナリオを描いて国民をごまかす傾向にある。内閣府が半年に1回発表する「中長期の経済財政に関する試算」は8-10年先の各種指数の見通しである。2028年までの見通しを示した最新の「試算」では、アベノミクスの「成長実現ケース」とトレンドを描いた「ベースラインケース」が検討されている。「成長実現ケース」、「ベースラインケース」では名目経済成長率、名目長期金利、公債利回りの予想が示される。「成長実現ケース」では名目経済成長率は速やかに上昇し、そのあと長期金利や、公債利回りが遅れて緩やかに上昇するというシナリオである。公債利回りの上昇は名目1%にも達せず、国債利子払いの負担をわざと軽くしている。「ベースラインケース」では名目長期金利が経済成長率を追い越すが、公債利回りはほとんど回復しない。公債/GDP比は10年以降になって、著者が推計した「より現実的なケース」では現時点から200%を超えて上昇し、内閣府の「ベースラインケース」では10年後に上昇し、内閣府の「成長実現ケース」では150%以下に減少した後、30年後から再び上昇するというシナリオである。これを10年後までしか示さないで済ませてしまうのは国民を欺くといわれても仕方ない。このなかで名目経済成長率はまさに仮定値であり、長期金利や公債利回りは経済成長の足を引っ張る阻害要因として純粋政策調整値である。経済成長率が危うければ何をかいわんやである。これらのことを勘案すると10年後の姿の試算は全くあてにならないとみるべきであろう。

(つづく)