ブログ 「ごまめの歯軋り」

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熊倉正修著 「日本のマクロ経済政策」

2021年06月19日 | 書評
千葉県 「香取神社 本殿」

熊倉正修 著 「日本のマクロ経済政策」 

岩波新書(2019年6月)(その11)

第3章 金融政策―デフレ対策という名の財政ファイナンス

4) 中央銀行を守るのは誰か
自民党政府が日銀の独立性を明確に否定することは西欧諸国では多くの批判を受けるが、なぜか日本ではメディアや学者の批判は起こらなかった。経済学の「リフレ派」は「デフレが日本経済停滞の元凶」だといって、人々のインフレ期待感を煽った。期待によって経済は変わりうるという幻想を振り撒いた。日銀の独立性の社会的価値を経済学者は理解していなかったようだ。黒田日銀総裁は、当時さほど円高でもなかったのに一方的な円売りを財務官時代に強行した。財務省が円売りを介入を行えば行うほど短期債務が増え、外貨資産は積み上がる。外貨準備が増えると外為特会が発行するFBから一般会計への繰入金が増え、政府の財政に関する危機感が弛緩した。財務省がFBを無制限に発行し外貨を手に入れることと、日銀が貨幣(日銀当座預金)を発行すればいくらでも公債を買い入れることができることは同じことである。しかし外貨や国債を市況に影響を与えないように処分することは至難の業である。円ドルレートと日経平均株価は2012年から2019年まで相関して上昇している。また日銀の信託財産(株式、ETF、J-REITO)と日経平均株価も右上がりに上昇してきた。こうしたことが大規模におこなわれ、日本では債券、株式、不動産、為替のすべての市場が「官製相場」になった。外為特会が一般会計の財務状況の悪化を糊塗するための子会社になっていることを示したが、このことは日銀についてもいえる。日銀は納税金と国庫納付金を通じて一般会計の帳尻合わせに協力してきた。日本銀行の財務諸表(保有資産と剰余金)について、2008年から2017年までの数値を見よう。貸借対照表では総資産は2013年より急増し529兆円となり、内国債が448兆円、金銭信託や貸出金も増加した。中央銀行が企業金融まで手を出している日本の例は先進国では足を洗った後である。つぎに損益計算書の数値を見る。日銀資産の中で外国為替も含まれている。為替リスクはほとんどヘッジされていない。それは日銀が外貨に対して時価会計を、円建てに関しては簿価会計を使い分けているで、リスク感覚がないのである。経常利益(2017年で1兆2300億円)の項目では、国債運用益1兆2200億円がすべてである。剰余金の項目では8900億円で、準備金積み立て、国家納付金7300億円、納税額8500億円である。日銀の会計規定第18条では自己資本比率は10%程度に維持すべきとなっているが、日銀の純資産が8兆円強に過ぎないのに、長期国債保有額は460兆円を超えた。国債に関しては簿価会計であり金利はほとんどゼロに近いので問題とならないが、長期金利は1%上昇するだけで30兆円の評価損となる。日銀は債券取引の損失引当金を増やしてこなかった。2015年より日銀は国庫への納付金は確保したまま、外為取引損失引当金を取り崩している。

(つづく)