茨城県結城市 称名寺「結城朝光の墓」
熊倉正修 著 「日本のマクロ経済政策」
岩波新書(2019年6月)(その10)
第3章 金融政策―デフレ対策という名の財政ファイナンス
3) 金融政策と財政政策の関係
異次元金融緩和はデフレ対策としては無用で非効率な政策であったが、本当の狙いは政府の財政赤字と債務を肩代わりする財政ファイナンスであったというべきであろう。日銀は異次元金融緩和は大量の国債を購入することは財政ファイナンスであるという批判に対して、その目的は財政支援ではなくデフレ脱却であると言い続けた。しかし金融緩和の本当の仕掛人は日銀ではなく政府であったことは、2012年末より日銀の独立性を否定してきたことから明白である。日銀に国債を大量に購入させる、それうぃ決定するのは日銀ではなく政府だと自民党の参議院選選挙公約にも謳っている。常に「日銀法の改正を視野に入れ」と日銀に脅しをかけてきた。金融緩和政策は日銀の専管事項であったが、これを政府との「協調」によって金融緩和政策を実行させるというのである。2001年から2006年にかけて行った日銀の量的緩和とは、けた違いに不可逆的に黒田総裁は実行した。もはや日銀の支援なしには財政はやってゆけなくなっていたが、今日の日本の財政は潜在的な破産状態にあるというべきで、しかも政府はその事実を糊塗して巨額の赤字財政を続けようとするのである。そもそも財政の持続性と自信と責任感を持っている政府であれば、異次元緩和のような政策は決して行わない。政府と日銀を含む広義の統合政府のバランスシートを見てみよう。政府、日銀、統合政府の3重帳簿がないと収拾はつかない事態にある。日銀が正常な金融政策を実施しているとき、資産は国債、債務は現金である。政府の資産はなく、債務は国債である。統合政府で見ると政府の債務であった国債は統合政府の債務になっている。異次元金融緩和を日銀がやっているとき政府の資産はなく、債務は国債であることは同じであるが、日銀の資産は国債、債務は現金と超過準備である。すると統合政府では政府の債務である国債は日銀の超過準備に変わっている。借り手としての有利な政府の債務としての長期、固定金利債務として国債は、日銀では不利な短期・変動利付の債務にそっくり入れ替わっているだけで債務残高を削減する効果はない。広義の政府にとって公債はいつでも超過準備に交換可能な債務である。市中銀行はいつでも超過準備を現金に変えることができるので、超過準備と現金の違いはない。国民が政府の財務管理能力を本格的に疑いだしたら、保有する公債はどうなるのか。財政管理能力を失った政府が明示的な債務不履行を避けながら回復する唯一の方法は、極端なインフレーションを起こして実質的な債務不履行を行うことである。日銀が異次元緩和に乗り出した当初から、ハイパー・インフレーションを念頭に置いていたのではないかと疑われる。
(つづく)