ブログ 「ごまめの歯軋り」

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熊倉正修著 「日本のマクロ経済政策」

2021年06月14日 | 書評
東京都 池上本門寺 「五重塔」

熊倉正修 著 「日本のマクロ経済政策」 

岩波新書(2019年6月)(その6)

第2章 通貨政策2-投資ファンド化が進む外国為替資金特別会計

2) 特別会計改革と外為特会の現状

2006年小泉純一郎内閣の下で特別会計について「行政改革推進法」が制定され、特会の効率化と整理を推進することが謳われた。企業会計に準拠した財務諸表の公表など評価すべき点も含まれていたが、特別会計の剰余金を一般会計に吸い上げることが主眼となってあまり好ましい方向への制度改革にならなかった。2007年「特別会計に関する法律」が制定され、剰余金に関しては8条に「なお残余がある場合にはこれを特別会計の翌年の歳入に繰り入れる、その残余の全部、一部を一般会計の歳入に繰り入れる」と定められた。2010年民主党内閣もこれを引き継いで、「事業仕分け」を行い外為特会の財投への預託金を為券の償還にあて、運用益の為金発行の解消を図るとされた。しかし保有資産の評価損を無視して剰余金を計算し一般会計に繰り入れる悪習と停止するまでに至らなかった。財務省は外為特会が円高によって債務超過にならないよう外貨資産の30%の留保積立金が必要とすることを知りながら、毎年の一般会計の帳尻合わせが優先されていた。2013年11月「特別会計に関する法律改正」では、毎年の積立金の制度は廃止され、剰余金は外貨のまま留保することができるようになった。そして簿価会計に基づく決算資料に時価ベースの財務諸表が作られるようになったこと、財投会計への預託が廃止された。しかし外為特会が保有資産の含み損を無視して毎年の利益を計算し、それを一般会計に繰り入れるため新たな円債を重ねるという最大の悪習はそのまま残った。財務省と政府の妥協の産物である。リーマンショックの後2009年―2010年の剰余金は全て一般会計に繰り入れられたが、それ以降剰余金は次第に減少し3兆円を下回り、積立金や内部留保は大きく減少したが、一般会計への繰入金は毎年約2兆円と一定である。外為特会の内部留保も保有外貨の30%を下回った。日本の公債発行額のGDP比率は先進国中でも約120%と最大である。問題なのは日本の公債は1年未満の短期債が80%以上を占めることである。それはFB発行残高が極めて大きかったからである。国庫短期証券とは政府が発行する償還期間1年未満の債権のことであり、FBと短期国債TBが含まれる。日本国債の大半は2013年以降日銀が保有している。しかし国庫短期国債TBは国内金融機関の保有が激減し海外部門の保有が増加している。金利ゼロでは日本の金融機関はFBには手を出さなくなった。海外オプションでは「為替スワップ」と呼ばれる取引である。先物の為替レートは日本の金融機関は不利、アメリカで調達したドル資金を円に換えて日本で運用するのである。こうした取引では日本から海外に富が流出していることを意味する。また日本の国債格付けランクがBに下がるとまともな海外投資家は日本政府の公債には手を出さないだろう。

(つづく)