ブログ 「ごまめの歯軋り」

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熊倉正修著 「日本のマクロ経済政策」

2021年06月15日 | 書評
京都市東山 「八坂の五重塔」

熊倉正修 著 「日本のマクロ経済政策」 

岩波新書(2019年6月)(その7)

第2章 通貨政策2-投資ファンド化が進む外国為替資金特別会計

3) 投資ファンド化が進む外国為替資金
外為特会の外貨の運用状況を見てみよう。「安全性及び流動性に最大限注意して運用する」となっているが、保有財産の表か損益を無視して剰余金を計算し、一般会計に貢ぐことが至上命令になっている状況で、安全性が考慮されているとは到底考えられない。2013年の特会会計改正第19条に「資産及び負債の状況及びその他の財務情報を開示するため財務大臣に送付しなければならない」となって、年度ごとの剰余金算出の根拠となる決算書類とは別の書類で外貨の運用状況を伺い知ることができる。「外貨運用益」はインカム・ゲインのみであるが、「評価損益」はキャピタル・ゲイン(ロス)を表している。表の「外貨資産」はかって定期預金が大きな比率を占めていたが、リーマンショック後外国市中銀行の破綻で安全でないここが分かったので、2010年末には大半の資産は「外貨証券」で保有されるようになった。これは国際協力銀行JBICが日系企業のドル調達のために活用されてきたものである。しかし金利が低く最長で20年の長期融資であるので、為替介入の突然の利用はできない。表の外貨証券欄の一番下にある(参考)「証券貸出残高」であるが詳細は表からは読み取れないが、リスクの大きい「三者レポ取引」に近いと考えられる。外為特会の証券貸出残高は2014年から増加し2016年では保有債券の約15%が貸し出され、収益はやく6200億円にのぼった。100兆円を超える巨額の外貨を安全に流動性に留意しながら運用することは非常に難しいことがわかる。

4) 諸外国の外貨準備の管理体制
先進国の公的外貨準備残高のGDPに対する比率は、2016年度末でアメリカが0.2%、ユーロ圏が0.4%、日本は23.4%、韓国は25.6%、スウェーデンは10%、イギリス圏は5%以下であった。外貨準備残高が最も多いのは日本である。日本や韓国は外貨準備の為替リスクを適正に管理しているとは思えない。欧米では政府と中央銀行が基本的な運用方針(ポートフォーリア)を決め、中央銀行が実務を担当する。日本の外貨準備の95%は財務省外為特会が保有し、残りは日銀が管理している。基本ポートフォーリアは決められておらず、財務当局が負うリスクの幅も決められていない。韓国では2000年に韓国投資公社という投資ファンドを設立し外貨の一部を運用するに至った。リーマンショック後FRBと外国中央銀行の間で「スワップ協定」が締結され、無制限にドルを融通することができるようになった。安全保障面で全面的のアメリカに依存する日本政府が巨額のドルを抱えるのは極めてまずい政策であるという。国内では巨額の債務に喘ぎ、アメリカドルへの巨額の投資家である日本政府が外国政府(アメリカ)への協力を余儀なくされるような事態は望ましいことではない。アメリカの連邦政府には為替平衡基金ESFを設立し、バランスシートには負債はない。ESFには債券の発行や借り入れが許されていないためである。財政の健全性を維持するにはこうした制約は欠かせない。日本の財務省では今日でも外貨資産を再投資することを続けている。このようなことをする外国政府はない。日本は恒常的に外貨買い付けを行い、円安でないとやっていけない体質に染まっている。為替政策の権限を財務省から取り上げ、日銀に移管することが抜本策である。日銀が為替介入と外貨準備管理の両方を担当することの方が合理的である。

(つづく)