ブログ 「ごまめの歯軋り」

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本庶祐著 「がん免疫療法とは何か」

2021年06月08日 | 書評
京都市右京区  仁和寺 「三宝院方丈庭園」

本庶 佑 著 「がん免疫療法とは何か」 

岩波新書(2019年4月)(その10)

第5章 日本の医療の未来を考える


医療と医学は単純に結びつくわけではない。医学的に重要な成果が医療に応用されたとしても、社会的インフラがないと一般の人に利用できないからである。日本には国民皆保険制度があり、優れた社会保障制度であるが既に破綻している。一般会計から税金が投入されているからだ。筆者らは「21世紀医療フォーラム」を作ってこの問題を10年間討議してきた。国民皆保険制度は、健康保険に国民全員が加入することが義務付けられ、保険料は収入に応じて支払うというまさに社会保障的な制度である。そして健康保険に加入している人はどこの病院でも受診して良いフリーアクセスである。欧州では公的保険制度で、かかる医療機関は原則指定されている。高度の医療が必要な時は医師が予約するしくみである。診療報酬は中医協によって診療点数が決定される。薬価も決められ、出来高払いである。米国では私的保険が中心である。現在日本の医療制度ではこのフリーアクセスと出来高払いが懸案の問題となっている。国民皆保険制度は、少子高齢化など人口構成の変化、高度化によって医療費が年々増加している。日本の保険料は「賦課方式」という実質は世代間の所得移転となっている。人の一生の医療費は死ぬ3-5年で50%以上になるからである。日本の健康保険制度を守るため、医療費削減、病院経営の効率化、モラルハザードの是正が必要であるが、フォーラムは次の提言を行った。①治療費・医薬品・医療機器・検査などの再評価を行い、無駄を省く。②地域の医療体制の再構築、高齢者を地域医療で支える。③医療提供・受診システムの改革、まず地域診療所でみてもらい高度な医療を必要するなら、紹介状をもって受診する。④適切な医師の配置、大都市から地域基幹病院への適正配置である。
医師の偏在には医師の適正計画が必要である。医師個人の自由だけでなく、日本弁護士会連合会のような組織を頭に描いて医師団体としてメディカル・アソシエーションのような組織が医師の適正計画を立てることがよいのではないか。高齢化社会では必ず死ぬことを自覚し、いかに生きるかと同時にいかに死ぬかを認識しなければならない。このことは終末期医療の問題に係わっている。生涯医療費は70歳以上で半分を利用している。療養型病院が終末期患者に本当に役立っているのだろうか。終末期医療の自己決定権をよく話し合っておく(リビング・ウィル)必要がある。2005年フランスで自己決定権の法制化が行われた。診療費を抑制する究極的な姿は病気にならないよう予防することである。人の健康状態を追跡する「ライフコ―スデータ」、遺伝情報からゲノムコホート研究(病気を予知できないかどうかの研究)の推進が望まれる。

(おわり)