ブログ 「ごまめの歯軋り」

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熊倉正修 著 「日本のマクロ経済政策」 

2021年06月21日 | 書評
京都市東山区 「南禅寺 水路閣」

熊倉正修 著 「日本のマクロ経済政策」 

岩波新書(2019年6月)(その13)

第4章 財政政策―経済成長は財政再建の必要条件か

2) 高齢化は財政危機の主因ではない
自民党や学者の中にも、日本の財政危機は予想外の経済停滞綾や高齢化が生み出したものと考えるひとが多い。統計的な事実として日本正負の財政赤字拡大をもたらしたということそれ自体は正しいが、それだけが主因だったのだろうか。政治家が高齢者の集票を気にして高齢者優遇政策に傾く現象を「シルバー民主主義」という。公的年金を減額したり、医療サービスの自己負担率を増やすことの政治的ハードルは確かに高い。しかし将来の人口や年齢構成の変化を予測することは難しくないので、それを織り込んで社会保障制度を設計しておくことは可能である。日本の財政が危機的な状況に陥っているのは民主主義の弊害ではなく、むしろ健全な政策を求める努力を怠ってきたという意味で「民主主義の未熟」なためである。健全な財政運営には成熟した民主主義が不可欠なのである。OECD21か国では先進国の民主主義指数を毎年集計している。老年人口指数値と純債務のGDOP比率を見ると、債務/GDO比率は老人人口指数とは無関係であることがわかる。またEIU民主主義指数と純債務/GDP比率は、民主主義指数が高いほど債務比率は減少することが分かった。老人人口指数が高く、民主主義指数が低い日本だけが純債務/GDP比率が高くなっている。日本の財政危機の原因を過剰なシルバー民主主義に求めるより、民主主義の未成熟に求める見解の方が説得力がある。EIUの民主主義指数の総合指数は5つの分野のスコアーからなり、それらを同時に考慮すると、日本の場合政治文化や国民の政治参加の低さが総合指数を押し下げている。財政危機と老人人口指数には統計的に有意差がない。

3) 政府の財政健全化目標の変化
日本政府が増税や歳出削減を避けて、交際を乱発するのは今に始まったことではないが2012年より以降そういう傾向がより強まった。政治家は常に好景気感を演出していないと自分の首が危ないからである。安倍政権の大きな問題は、単に放漫経営を続けるだけでなく、財政の真の姿を国民の目をそらせてきたことである。歳出の上限さえも受けなかった。政府は無制限な金を供給する共有地になり、切り取り勝手の無法地帯となった。2020年までにプラインリーバランスをゼロにする目標期日はいつの間にか2025年に延期された。その言い訳に公債残高/GDP比を大きくしなければいいとして、分母のGDPを大きくする目標を掲げたが、いつまでにGDPを600兆円に増加させる年限は示さなかった。仮にプライマリーバランスがゼロが達成されたとしても、1000兆円の公債残高d、GDPは500兆円であり、公債・GDP比は200%である。交際の年利率が2%とすると年度末に1020兆円に公債残高は増加する。期末の公債/GDP比は204%となっている。増税や社会保障費の引き上げによって歳入を増やすか、歳出を減らす努力をしなければならない。消費税収に匹敵する額である。政府や中央銀行が金利を人為的に低位の抑え込んでいる国では、債務/GDP比が財政健全化の指標として意味をなさない。

(つづく)