ブログ 「ごまめの歯軋り」

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熊倉正修著 「日本のマクロ経済政策」

2021年06月20日 | 書評
千葉県香取市 「出格子の家」

熊倉正修 著 「日本のマクロ経済政策」 

岩波新書(2019年6月)(その12)

第4章 財政政策―経済成長は財政再建の必要条件か

1) 政府の経済成長目標は現実的か
IMFの統計によると、2016年度末の日本の一般政府(中央・地方政府と社会保障基金の合計)の債務総額は1279兆円(2015年度名目GDPの2.4倍)この債務額は世界でもダントツ1位である。債務から金融資産残高を引いた純債務のGDP比も極めて高い。日本政府の財政運営のスローガンは「経済成長なくして財政再建なし」である。2014年度「経済財政運営と改革の基本方針」では「経済再生と財政健全化の好循環構築が不可欠である」という。この文章は当面は財政再建を先送りにしてでも経済再活性化に注力するという文脈が見え見えである。「経済成長なくして財政再建なし」には二重の欺瞞が存在する。第1に政府の掲げる経済成長率の実現が難しいことに政府は気がついている。2012年以来6年経過したが、「名目GDP年率3%、実質GDP2%」の目標は一度も達成されたことは無い。第2に経済成長が財政再建の必要条件でも十分条件でもないことは明白である。財政再建とは究極的には政府の長期健全化計画とやる気と責任感にかかっているのである。しかし現政府にはやる気と責任感が決定的に欠如している。安倍政権発足前の10年間の実質経済成長力は0.7%、発足後5年間の実質経済成長力は1.3%であった。この成長の内実は前10年間マイナス成長であった民間住宅、公的固定資本形成、民間企業設備投資のせいである。小泉内閣の時減少していた住宅投資と公共投資が復活しプラス成長したことである。人口が減少している国で住宅ストックが過剰になっているにもかかわらず、実質成長率を越えて成長するのは異常であり、持続的ではない。2020年オリンピックや大阪万博と同じように公共投資は持続的ではない要因である。こうした国において設備投資が増加すると生産活動はますます非効率になる。アベノミクス開始前後で増加率が変らないのが、加計最終消費と政府最終消費である。G7先進国の実質経済成長力をみると、かって世界のトップだった日本の経済成長率は1970代年から2010年代において、4%から0%と最下位に近い位置に落ちこんだ。その理由として、勤労世代人口の減少がある。国民の総労働時間が減り続けていたのである。マンパワーあたりの実質GDP成長率も日本はかって4%あったが今や1%に転落していた。これは経済の停滞ではない。まして国民の自信喪失ではない。15歳から64歳の生産年齢人口は日本では今後1%づつ減少してゆく。2003年がその増減の分岐点であった。労働生産性の上昇率が年率1%だとすると、今後の日本経済成長率は0%程度と考えるのが妥当である。その状況は先進国ではどこ同じことである。実質GDP2%成長目標を達成するため、将来の需要を先食いしたり、成長政策のつもりでバラマキ政策を行うと、経済の効率性と安定性がかえって損なわれることになる。

(つづく)