角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

血気盛んなご老体。

2012年10月31日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き〔四阡四百円〕
夜桜の色違いであるこちらのベース生地は、これまでもときどき編んでいました。つい最近までこの布地を使った21cm草履があって、それを見本にした他のサイズのご注文が4、5人続いたんですね。準定番からの格上げを考えています。

今朝出勤数分前のこと、一本の電話がありました。お電話の主は明らかに「おじいちゃん」と呼ばれる年代で、表示された電話番号からも、また言葉訛りからも、秋田県内というのが分かりました。
電話というのは不思議なもので、そのくらいの情報でも気持ちに余裕が生まれますね。

横手市にお住まいのおじいさんは、三年ほど前に西宮家を訪れ角館草履をお買い上げくださったそうです。そろそろお買換えを考えておられるそうで、今日角館に行けば私と会えるかをお尋ねでした。間もなく出勤をお伝えすると、『あぁ、それは良がった。実はひとつ困ったことがあってシなぁ、草履のお店がどこにあるかが分がらねぇんシもの』。

三年前のお訪ねも、10数人のグループでお越しでした。主導者が他にいる、つまり「連れられて」のお訪ねだったわけです。人に連れられて行った先は、ほとんど道順が頭に残らないものです。それは私も充分覚えがあるとして、困ったのはそんな状態のご高齢者に電話で道順がご理解いただけるかでした。

瞬時に思いついたのは、まず角館駅を目指し、そこからは地元民に訊いてもらうことでした。駅であれば案内標識が続いていますし、駅から西宮家までは一本道です。
おそらく電話が終わって間もなく出発されたのでしょう。午前11時には西宮家に到着されました。

お会いしてすぐ、三年前の初対面を思い出しました。お歳の頃は80歳代半ばでしょうか、体格の良いおじいさんで、そのカクシャクぶりは名のあるスポーツ選手のようでもあります。午後には出席する会議があると言いますから、おそらく今尚社会活動にご奉仕されているのでしょう。
『無事に着けましたね』と言うと、『いやいや、一度迷いましたよ』。

石原慎太郎さんが都知事を辞して、国政選挙に立候補するようです。記者会見で80歳という年齢を質されると、『そうだよ、なんでこんな年寄りがやらなきゃならないんだ。若い奴がもっとしっかりしろ』。
「若い奴」のひとりとして、頭が下がる思いですよ。

この表明を指して、田中真紀子文部科学大臣が「かっこ悪い暴走老人」と評しました。私には「かっこ悪い」とは思えませんけどね。「暴走老人」の例えは間違っていないかもしれません。それは石原さんも認めていて、『暴走老人だから途中で死ぬかも知れない』と笑っていました。

先の横手市のおじいさん然り、石原慎太郎さん然り、ご老体の血気盛んな姿に少なからず影響される草履職人でありました。
コメント
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