緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

2014年度(第57回)東京国際ギターコンクールを聴く

2014-12-08 00:24:27 | ギター
今日(7日)、東京代々木の白寿ホールで第57回東京国際ギターコンクールが開催された。
昨年度からこれまでの東京文化会館小ホールから白寿ホールへ変わった。
この白寿ホールは収容人数が少ないため、昨年は当日券が発売できないという恐らくこのコンクール始まって以来の事態となったため、聴きに行くことができなかったが、今年度は早めに前売り券を確保した。
それでも今年はいくらか空席があった。コンクールへの応募者も今年は昨年に比べ減少したようだ。
審査員もがらっと変わった。ギタリストによる審査員はいつもの顔ぶれであったが、ギタリスト以外の審査員は今までと全く異なる方々。失礼ながら私はこの審査員の方々の名前は初めて聞く。
今年の課題曲は伊福部昭作曲「箜篌歌」。
伊福部昭のギター曲のうち最も演奏時間が長く、難易度の高い曲である。
西アジアから中国を経て古代日本に伝わったとされるハープのような楽器の残闕からインスピレーションを得て作曲された言われている。
演奏時間約20分からなる大曲である。序奏の後、美しい日本旋法によるアルペジオ(分散和音)が続き、中間部は静かな暗黒の闇に吹く風のなびきを表現したかのような厳かな曲想がかなり長い間続き、再び前半のアルペジオを再現される。
この課題曲の演奏時間の長さからか、1人当たり持ち時間は45分。午後1時に開演して、審査発表が終わったのが7時半となり、さすがに疲れた。帰りも遅くなったので、審査結果と感想を一言書いて今回は終わりにしたい。
詳細は後日詳しく報告したいと考える。

さて気になる審査結果であるが、以下のとおり。
カッコ内は私が付けた順位。

1位:Thomas Csaba(フランス) (2位)
2位:Xavier Jara(アメリカ) (1位)
3位:小暮 浩史(日本) (5位)
4位:Cameron O'Connor(アメリカ) (3位)
5位:斎藤 優貴(日本) (4位)
6位:山田 大輔(日本) (6位)

日本人が3人入賞とは、このコンクールで長い間無かったことだ。海外からの参加申し込み数が前回26名に対し、今回9名と激減したことにもよるのかもしれない。日本人参加者にとっては有利だったようだ。
今回のレベルは国内勢はあまり例年と変わらなかったが、海外勢のレベルは高かった。
10年前くらいに、アレクサンダー・レンガチ、トーマス・ツヴィエルハ、ホルヘ・カバレロといった強者たちが競い合った大会を思い出させるハイレベルな演奏であった。
惜しくも2位となった Xavier Jaraは、私は間違いなく1位だと思っていたのであるが、スカルラッティが素晴らしかった。単音、和音ともに濁りがなく、鮮明であり、装飾音の処理は見事であった。左指がとても柔らかく、編曲は自身が行ったのであろうか、左親指での押さえも登場するなど、大変凝ったものであった。
最後のロドリーゴの超絶技巧を要する難曲も、速いパッセージでも音色の変化をつけられるほどの余裕のあるハイレベルな演奏。何故2位だったか、疑問に思うが、課題曲があまり良くなかった。アルペジオの部分が単調、感情的な高まりに欠けていたことと、最後のソのvibrato lentoの処理が、今までの曲想から大変乖離する結果となったことが、マイナス評価につながったのかもしれない。残念だ。
1位の Thomas Csabaは、2年前の覇者が自由曲に選んだ、大曲「ミュージック・オブ・メモリー」(N.モー作曲)を弾いて栄冠を勝ち取ったが、この曲の演奏は2年前の覇者の演奏よりもインパクトは薄かった。
ただホール全体に響き渡る強い説得力ある音と、先の難解な大曲を殆どミスなく、弾き切ったことがプラスに働いたと思われる。課題曲の演奏はミスタッチが多くあまりいい出来ではなかった。
ファリャの「ドビュッシーの墓に捧げる賛歌」はリョベートの運指を用いず、ローポジションでの運指を多用していたが、このような演奏時間が短くかつ演奏頻度の高い曲は、国際コンクールの審査対象としては評価しにくく、効果が薄いように感じる。「ミュージック・オブ・メモリー」の演奏時間が長いだけに、もっと演奏様式の異なる曲を加えることができなかったのだろうがが、もっと多角的な評価をするためには1曲当たり演奏時間の上限を設けてもいいように思った。

全体的に課題曲の演奏で感じたのは、後半のアルペジオで「Piu Mosso」からソのvibrato lentoの前までの速度がそれまでと変化していない奏者が多かったことである。
この「Piu Mosso」から本来速度を上げなければならないのであるが、速度を上げていない演奏が目立った。
その理由は、「Piu Mosso」までのアルペジオ速く弾きすぎているからではないだろうか。もう少し速度を落として、分散和音の各音の分離と作者が「箜篌」から想像した感情の流れを味わいたかった。
また、「Piu Mosso」からしばらくしてffに入るが、このffの部分も変化が少ない演奏が多かった。
この部分はもっと強く激しく感情的に弾くべきだと思う。
5位の 斎藤優貴さんの課題曲の演奏はオーソドックスであったが、この指定をよく理解したいい演奏だと思った。音が終始硬質だったため、順位を下げたのかもしれない。
4位の方の課題曲の演奏は箏の奏法を意識したものだと思われる。
箏奏者の第一人者であり、長く東京国際ギターコンクールの審査員を務めた野坂恵子氏の二十五絃箏編曲版の演奏を聴いたのであろうか。この4位の方の演奏も全体的に良かったが、上位に食い込めなかった。

他の感想は後日に譲るとして、来年の課題曲は原嘉寿子の「ギターのためのプレリュード・アリアとトッカータ」である。7,8年前の課題曲にも選出されたが、前衛時代真っ盛りに作曲された、不協和音たっぷりの聴き応えのある曲であり、楽しみだ。

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2 コメント

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Unknown (Tommy)
2014-12-08 09:50:33
東京国際ギター・コンクールの名は目にしたことがあると思っていたところ、現在時たま利用している教則本の著者Scott Tennantの著者紹介でした。89年に優勝したと書いてありました。私の理解はその程度で、課題曲もかなり高いレベルで聴いたことがありませんでした。
内容を理解され的確に批評されておられるので相当この分野ではお詳しいですね。とても参考になります、ありがとうございます。
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Unknown (緑陽)
2014-12-08 23:06:18
Tommyさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
スコット・テナントが優勝した年は確かパリ国際ギターコンクールで優勝したシュテファン・シュミットという方との争いだったと記憶しています。
まだプロデビューする前の鈴木大介さんも参加してヴィラ・ロボスのエチュード第1番を弾いていたと思います。
東京国際ギターコンクールの本選課題曲は日本人作曲家の曲が毎年選ばれており、聴くのを楽しみにしています。
今回の「箜篌歌」は長い間楽譜が絶版で、弾く人もおらず陽の目を見なかったのですが、西村洋さんがレコードに録音してから徐々に注目されるようになりました。
楽譜も90年代半ばに再発されました。
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