緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

F.モンポウ作曲「歌と踊り第13番」ピアノ編曲版(アントニ・ベセス版)を聴く

2023-05-21 21:40:14 | ギター
今日、久しぶりにマンドリンアンサンブルのコンサートを聴きに神奈川県某町まで行ってきた。
小編成での団体だったが、小編成なりの良さが出たいい演奏だったと思う。
最後の難曲は学生時代に演奏した曲。当時の思い出のシーンの断片がいくつか蘇ってきたのは嬉しい。

さて、寝る前のひとときに、フェデリコ・モンポウの「歌と踊り第13番」を聴いてみた。
モンポウの歌と踊りは15曲あるが、第13番のギター、第15番のオルガンを除き全てピアノ曲である。
1970年代に録音された作曲者自身の自演録音があるが素晴らしい演奏だ。
特に第2番はこれ以上ない究極の演奏だと思っている。

「歌と踊り第13番」はクラシックギターの巨匠、ナルシソ・イエペスの委嘱により1972年に作曲されたと言われているが、グラモフォンにカタロニア民謡やアセンシオの「内なる印象」とともに録音されたその演奏は、彼の膨大な録音の中でも最高レベルの演奏だと私は思っている。
とくに踊り「賢い猟師」の中間部、神秘的な雰囲気を醸し出す部分の演奏は神業としか言いようがない。
物凄い演奏です。これほどの演奏を出来るギタリストは2度と現れないと思う。下にYoutubeの投稿を貼り付けさせてもらったので是非聴いて欲しい。

Mompou: Cançons i dansas - No. 13


この「歌と踊り第13番」のイエペスの演奏は10弦ギターでの演奏となっているが、1986年にマドリッドの出版社から出版された楽譜(ホルディ・コディーナ校訂)は、6弦ギターでの演奏を前提とした内容になっているだけでなく、イエペスの録音での演奏とは随所でかなり異なっている。









単に、10弦ギター特有の低い音域を6弦ギターで演奏できる音域に変換したというような単純な変更ではなく、音楽の構成内容自体が部分的にかなりの箇所で相違している。
1986年に出版された楽譜を見ると、まさにピアノで演奏することを前提とした構成内容になっていることがわかる。
だから、この楽譜をギターで弾くと、シンプルな内容にもかかわらず技巧的に非常に困難を感じることが分かる。
この曲自体が名曲であるにもかかわらず、ギターで演奏するギタリストが極めて少ないのはこのためではないかと思えてくる。

では、出版された楽譜が何故、イエペスが10弦ギターで録音したとおりの内容で出版されなかったのだろうか。
イエペスが1972年にグラモフォンに録音したものがこの曲として正式なものであることは疑いの無いことであろう。
これはあくまで推測であるが、モンポウから最初に提示された譜面があまりにもピアノ的でギターで弾くにはふさわしくないだけでなく、ギターで演奏するには音域面や、音の響きの面などである意味物足りなさをイエペスは感じ取ったのかもしれない。
だから、イエペスは10弦ギターでの表現能力を前提に、モンポウに対し、このように変更できないかと、その独自の案を示したのかもしれない。
録音での「歌と踊り第13番」は、モンポウ独りでは成し遂げられない、イエペス独自のギター的要素が反映されたものとみて間違いないのではないか。
ただ出版に際しては、モンポウは自分のオリジナルティーにこだわったのかもしれない。
だから校訂や運指付けはイエペスが行わなかった。

ところで、この「歌と踊り第13番」のピアノ編曲版が今までCDに録音されたり、Youtubeに投稿されたりしてきたが、作曲者モンポウ自身が許可をしたピアノ編曲版の楽譜が2020年に出版、2022年に発売されていることを知った。

https://www.academia-music.com/products/detail/178919

「編曲者のアントニ・ベセスはモンポウがその演奏を高く評価したピアニストで、この編曲は作曲者の許可、モンポウ財団の協力によって実現した」と紹介されている。
第13番ととも第15番もピアノ版に編曲されている。
ちなみに第15番のオルガンの曲もすごくいい曲です。これもぜひ聴いて欲しい。Youtubeに演奏があります。

編曲者のアントニ・ベセスの演奏がYoutubeにないかと探してみたら、何とライブ(自宅?)での演奏があった。
かなり特異な編曲、演奏だ。
1986年に出版されたギター版の内容ともかなり異なる。

Cançons i dances núm 13 i 15 de Frederic Mompou.


この演奏を聴いた後に感じたのは、この「歌と踊り第13番」の演奏はやはりイエペスのギター演奏でしかありえないということだった。
イエペスの演奏は本当に究極の名演としか言いようがないと確信している。
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