緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

結城信一全集を読む

2014-04-20 23:37:54 | 読書
こんにちは。
2012年の秋、今から1年半ほど前の頃であったが、会社から貰って集めていた図書カードで1冊の文学書を買った。御茶ノ水の東京堂書店で見つけた「結城信一全集 第1巻」である。



聴いたこともない作家で、どんな小説かも全く分からなかったが、とにかく直観でそれを買おうと思った。
読み始めていくにつれ、いい小説を書く作家だと思った。買って無駄にはならかった。
大それたことをテーマにするわけではなく、難解さを前面に出すわけでもない。とても自分に正直に素朴な書き方をする人だと感じた。
半ば自分自身を主人公に見立てて、ときに自己愛的な感じがしないとも言えないが、自分の弱さ、頼りなさを正直に描いている。小説で主人公は立派であったり、格好良く描くものが多いが、結城氏の小説は素直さをまず感じる。
全集は全3巻で、2巻、3巻は中古品で買った。3巻の終わり近くまで約半年で読んだが、最後の「不吉な港」は1年のブランクの後に読み始め、昨日やっと完読した。
結城氏の最高傑作は「螢草」であろう。第2次大戦中を舞台にした悲恋をつづったものであるが、昔の若い人の純粋な気持ちを感じることのできる名作だと思う。
今はひとかけらも無くなってしまったものがこの小説を読んでよみがえってくる。小説では高校生の時に読んだ武者小路実篤、映画では「忍ぶ川」など、多感な時代に出会ったものと共通したものを感じる。
現代は男女平等が当たり前の時代で、男も女も役割や待遇において何ら区別がなくなってきた。女でも大型トレーラーの運転手になれるし、男でも昔で言う看護婦になれるまでになった。
性差を感じることが少なくなってきた代わりに、異性に対する尊敬の念、憧れの気持ち、一途な気持ちというのは薄れてきているように思う。
結城氏の「螢草」に出てくる時代は、男女平等とは言えなかったが、男女間における尊敬の念、礼節をわきまえたふるまいなどを文章から読み取ることが出来る。今の時代にこのような小説を読むことはむしろ新鮮な気持ちにさせてくれる。
「石榴抄」はある歌人に尽くした若き女性の無念の死を描いた小説であるが、この時代に不治の病と言われた結核の恐ろしさと、一途なまでの献身を生涯を通して貫いた女性の信念の強さに心を打たれた。
最後の小説「不吉な港」は、銅版画家が能力に行き詰まり、酒に溺れて身を破滅させる様を描いたものであるが、この芸術家がいかに過酷な葛藤、苦しみを抱えながら生きているかが伝わってくる。
芸術家の中には一旦名声を築くと、贅沢な生活、派手な生活をするものもいる。ピアニストで言うと、晩年のアルトゥール・ルービンシュタインやフリードリヒ・グルダなどであろう。
自己に厳しい者は妥協を嫌うあまり、苦悩する人もいる。妥協せずとも仕事を昇華していければ良いのだが、自分の理想のものが生み出せなく、苦悩し、自分に苛立ち、精神を病んでいく人もいるであろう。
この「不吉な港」は、デビューした頃は高い能力を発揮し、今後の目覚ましい活躍を予感させた人物が、仕事のいきづまりを酒で紛らわすうちに、仕事を安易な方向に転換させるようになった一人の芸術家の転落と破滅を書いたものであるが、芸術という仕事が真に人々に評価されるまでになることがいかに過酷であるかがわかる。
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フレデリック・ディーリアス作曲 ピアノ協奏曲ハ短調を聴く

2014-04-20 20:42:50 | ピアノ
こんにちは。
4月も終わりに近づいていますが、寒い日が続いています。
最近、ピアノ協奏曲を聴いています。1年前にチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の聴き比べをしてからしばらく途絶えていたが、ベートーヴェンの5つの協奏曲、シューマンの協奏曲などを聴きました。
今日聴いたのが、フレデリック・ディーリアス作曲 ピアノ協奏曲ハ短調。
演奏はピアノ:クリフォード・カーゾン、BBC交響楽団。1981年のライブ録音。



フレデリック・ディーリアス(1862~1934)はイギリスの作曲家で、若いころにアメリカに渡りオレンジ栽培の仕事をするが、感心はもっぱら音楽に向かい、正式に音楽を勉強するためにドイツに行き、後にフランスで作曲家として活躍したようです。
ハ短調とあるが全く悲しいところはなく、むしろほとんど長調の曲です。
アメリカ移住時代に黒人霊歌を耳にし影響を受けたと言われているが、悲痛なものはみじんもなく、広大な大地を思わせるおおらかさ、ガラス細工のような繊細さ、乾いたよく晴れた日差しを感じさせる独特な曲想だ。
ピアノは速いパッセージは少ないが、半音階的な和音の連続が何度も出てきており、この和音連続が非常に高度な技巧を要求されているのが聴いていてわかります。
第2楽章のおおらかなゆったりした穏やかな旋律は、遠い昔、子供の頃をかすかに思い出させる。
第3楽章は一転激しい曲想となるが、カーゾンの情熱全開の演奏が凄い。鍵盤をやたら叩くわけでもなく、高貴な職人芸的な音楽であるが、芯の強いタッチが素晴らしい。
カーゾンと初めて出会ったのが、1年前にチャイコフスキーのピアノ協奏曲の聴き比べをしていた時であるが、音楽表現や音の作り方は超一流といってよい。このライブ録音を聴けばより一層彼の実力を感じるに違いない。
フォーレやショパン以外のピアノ曲を本格的に聴くようになって1年ちょっと経ったが、驚くのはピアニストに素晴らしい演奏家がたくさんいることだ。ピアノ音楽の世界の深みにはまっていくにつれ、ピアノ界というのは恐ろしく広く深い世界であることをまさまざと見せつけられる思いだ。
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